━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「体罰(下)」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ずいぶん前の懇談会での話です。

僕は新米の父親として参加していました。

体罰の話題になり、保護者からは「愛のむち」としての体罰を
求める声が出ました。

それに対して、先生はとまどいます。

そして、こんな例を出しました。

保護者から
「叩いてでも、しつけてほしい」と言われていた同僚が、
体罰によって処分されてしまった。

そのことに対して、その先生は
「彼は加害者だが、被害者でもある。」と言いました。

そして、僕に、
「父親として体罰に関する意見を」と、おはちがまわってきました。

不意をつかれた僕は、考え考え、次のように話しました。

************************************************************

教員が保護者から「叩いてもイイですよ。」と言われたから体罰を
行う。
その教員の行為は無責任だと思います。

保護者が何と言おうとも、自分の判断で最良の対処を選ぶのが教員
のつとめです。
ですから、その体罰によって処分されたとしても全く教員自身の責
任だと思うんです。

また、全く別の問題として教員に体罰を求める保護者も無責任だと
思います。
仮に体罰が法律で禁止されていなくとも、無責任だと思うんです。
その教員を信頼しての言動だとは思うのですが、やはり、おかしい
と思います。

教師が体罰を与えなくとも大丈夫だと言える子を育てるつとめが親
にはあると思うんです。
我が子を振り返ると偉そうなことは言えませんが、僕は教員に体罰
を求めません。

また、ある人間に体罰を与えるという権利は、もしあるとすればで
すが、、。
その人間本人のみにあるのではないかと思っていたんです。
つまり自分を叩けるのは自分自身だけだと思っていたのです。

けれど、子どもを持ってみて思いが変わりました。

その本人さえも自身を叩く権利は無いのではないでしょうか。
そう思えるのです。

そして、その考えをあらゆる機会に徹底していけば、あらゆる暴力
が無くなる可能性がありそうです。
自殺などという悲しい事件も無くなるかも知れません。

「場合によっては体罰もいい。愛情があれば体罰もいい。」
このような言葉は正しいようで実は間違っていると思います。
「どんな場合でも体罰はいけない。」
こう教えて、大人も実践していくべきだと思うんです。

そして、力によって解決できる問題はないと教えねばなりません。

「ゲンコツを与えられる父親が少なくなった。父権の失墜だ。」
そんな言葉もよく耳にします。
でも考えれば、これこそおかしいです。
ゲンコツがなければ躾もできない、それこそが父権の失墜です。

だから僕は子どもに愚直なまでに繰り返すつもりです。

「力によって解決できる問題は存在しない。」と。

************************************************************

今、振り返れば、なんとも生意気な発言だとも思います。

父親として、初めて参加した懇談会です。

肩に力が入っていたのかもしれません。

いいえ。
実は、もっと別の理由があったように感じられるのです。

教員時代の自分の経験・・・。

敏君を叩いてしまった時の、あの「口のにがさ」のわけを僕は気づ
いていたのではないかと思うのです。

つい反射的に叩いてしまった。
「体罰」は差別的なもので、僕は2度と体罰を行わない。

そういう動機や信念は、いいわけであり、本来の僕の姿からの逃避
ではないか。

そう、気づいていたのではないかと思います。

あの時の敏君。

「ごめんなさい。ごめんなさい。」と泣きじゃくった敏君。

わんぱくな敏君が、わずかに震えながら立ちすくむ姿。

叩く前の僕は、その敏君の姿を、ひょっとすると、心のどこかで期
待していたのではないか。

子どもに対する権力者としての教員像を、確かめたかった自分がい
るのではないか。

敏君だけでなく、クラスの子ども達にその力を誇示することを目的
とした、なんとも情けない「本来の僕」がいたのではないか。

目の前の敏君に対する申し訳なさを上回る、自身の傲慢さに対する
脅え。

僕に震えていたのは、他ならぬ僕でもあったのです。
 
 

敏君・・。

さらに数年が経ち、社会人になった敏君に会いました。

「先生、いい先生だったもんな。」

敏君は社交辞令を使えるほどの大人になっていました。

「敏君、いくつになった?」

「もう22だよ。
 おっさんだよ。
 早いよね、センセ。」

あっ。あの時の僕と同じ年齢・・・。

敏君は、あの時の僕より、ずっとずっと大人になっていました。

今なら、あの「にがさ」を話せるかもしれない。
いや、話したい。

僕は、そう思いました。

でも・・・・。

でも、できませんでした。

そのわけは、悲しいけれど、しっかりとわかっていました。
 
 

(了)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【2】メールお待ちしています。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■つながるメルマガをめざす「♪」。
***********************************************************
 ●もし、お時間がありましたら、今回の発信に対するご感想の
 メールを返信してください。
***********************************************************
■返信の仕方■
 ●このメルマガに返信で届きます。
 ●ペンネームや、もしお持ちでしたらHPアドレスなどお書き
  下さい。
 ●頂いたメールはHPやメルマガで紹介させていただきます。
  もちろん、掲載は困ると言う場合は、その旨をお書き下さい。
  掲載いたしません。
  どうぞ、よろしくお願いします。
***********************************************************



目次へ          ご意見メール