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     「東を向いて笑う(2)」
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その(1)の概略

僕が小学校5年くらいの頃のことです。
我が家には、その年穫れた「お初ものの食材」を頂くときに
「東を向いて笑う」という「しきたり」がありました。
そのしきたりを
「あほらしい、科学的でないからやめよう」という僕に対して、母は
言いました。

「お前、学校行って、何、勉強しとるんや?!
 お前みたいな人間を『小利口(こりこう)のバカ者』と言うんや。」
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「お前、考えてもみい。
 1年間に何種類くらいお初ものを頂くと思う?」

「そんなん、わからんくらい多いはずや。
 そやから、あほらしいことを何回も繰り返すのはやめようやって
 言っとるんや。」

「ばっかやのお。
 お前は想像力がないな。
 お前のお・・。
 そんだけ、たくさんの回数、家族が一緒に笑うっちゅうことやぞ。」

「・・・・。」

「お初もののカボチャが出た。
 『はい、いただきます。』ちゅうて黙々と食べるのと、
 家族がそろって、『ははは。』ちゅうて笑って食べるんと、
  どっちがいいか、わからんか。」

「・・・・。」

「笑って食べたからと言って、来年も元気で食べることができるか
 どうか・・・そんなことは誰も保証してくれんわい。

 そりゃあ、お前に言われんでも知っとるわい。

 何が科学的や。

 けどな、それより大事なのは、笑うのがいいか、笑わんのがいい
 かと言うことや。
 そんなことも、お前にはわからんのか。」

「・・・・。」

「家族がそろって笑っとれば、それが幸せや。
 そこに、理屈は、いらんぞ。
 笑うかどには福きたるという言葉をしらんのか!?
 笑っとれば、知らず知らずに健康にもなるし、いいことづくめや。」

「・・・・。」

「お前、学校に行って、何、勉強しとる?

 つまらん理屈を覚えて、カボチャ頭になっとるぞ。

 種ばっかり増えたカボチャは、実がすくのうなって、おいしくな
 いぞ。

 勉強は『小利口(こりこう)のバカ者』になるためにするんじゃ
 ない。

 何のために勉強するんか、考えてみい。
 ほらほら、はよう、笑ってカボチャを頂きな。」

「・・・・。」

僕は、なめくじのように しぼみました。

そんなやりとりがあって、30年近くが過ぎました。
母はずいぶん前に亡くなり、僕は2人の子どもを持つ父親になりま
した。

「小利口(こりこう)のバカ者になるな。」
生前の母は何度も僕にそう言いました。

現在、僕の家族は、父、かみさん、そして2人に僕、の5人です。

そして・・・。
そして、僕らは、今でも「お初物」のたびに、東を向いて笑ってい
ます。

(了)



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