僕が通った高校は「普通科高校」、いわゆる地方の公立進学校でした。
毎週、月曜日の朝には「学年集会」なるものがあり、進学のための心得指導が行われていたのです。
他校の学生との成績比較、昨年合格した先輩の話、「進学は戦いだ。」という教師の言葉。
今考えると「洗脳」とはこんなものなんじゃないかな、なんて思ってしまいます。
そんな高校時代に僕は高野先生に出会ったのです。
高野先生は化学の先生でした。
おそらく50歳代中頃の年齢だったと思います。
笑うと、目尻のしわがいっそう深くなる、そんな感じでした。
そして僕たちよりずっと背が低い小柄な先生だったのです。
その日も、いつものように白衣を着て、教壇に立っておられました。
授業は「共有結合とイオン結合」でした。
授業の残り時間が5分くらいになった時のことでした。
先生はいつものように「質問はないですか?」とおっしゃいました。
すると今野くんが「あります!」と言って手を挙げたのです。
僕らは一斉に今野君に注目しました。
「はいどうぞ、どんなことかな?」
「あのお、昨日、アインシュタインのテレビを見たんですよ。」
僕も、その番組を見ていましたから、質問に対する興味が倍増したのを覚えています。
「ほほう、アインシュタインときましたか。
私も見ましたよ。
おもしろい番組だったね。
で、どんな質問かな?」
「アインシュタインが『自然は単純にできている』と言ったんです。」
「うんそうだね、自然は非常にシンプルなもの、そのシンプルさが美しいね。」
「先生も、賛成ですか?」
「ああ、だからこそ私は自然科学を専門に学んだんだよ。」
「でも、先生、僕たちが習った化学はいつも、いつも複雑です。」
「ほほう、、。」
「ある場合はこうこうで、条件が変わるとこうこうで、、。」
「、、、、。」
「法則なんて、複雑な方程式ばかりです。」
「ふむ、ふむ、、。」
「今日の授業の結合もそうです。」
「結合が複雑かな?」
「はい、どうして分子とかが結びつくのに『共有』とか『イオン』とかあるんですか?」
「、、、。」
「僕が神様だったら単純に1種類にします。」
「、、、君の質問は楽しいなあ。」
と高野先生は目尻のしわを深くされました。
そして、意外なことを言われたのです。
「君には、友達がいるかい?」
今野君だけでなく、僕を含めたクラスの全員がきょとんとしました。
(その(2)につづきます)
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