変な問いかけでしょ。
これ、僕が小学校6年生の担任をしていた頃、音楽の授業で子ども
達に言った言葉なんです。
その当時の小学校の教員は、全教科を担任1人が行っていました。
当然、音楽の授業もやりました。
どの教科の授業もへたくそな教員でしたが、音楽となると最高にだ
め。
学生の頃は友だちとバンドなど作り、ギターを弾いたりしていまし
たが、他人様に教えるような技術や能力は、とんと持ち合わせてい
ませんでした。
だからこそ、冒頭のように変な問いかけが出てしまうんですね。
音楽の記号を覚える授業でしたが、
「ただ暗記するのはつまらないんじゃないか。」などと思ってしまっ
たのです。
でも、「どんな記号や音符が好きか?」なんて言われても、大人だっ
たら困っちゃいますよね。
ちなみに僕自身は「ト音記号」が好きでした。
音楽に詳しい人はご存じでしょう、多くの楽譜の1番最初につけら
れているマークです。
あの独特のくるくるっとした複雑な形。
子どもの頃、ト音記号が「一筆書き」だと知り、感動した記憶があ
ります。
初めて5線上に描けるようになった時は、嬉しくて何度も何度も繰
り返したものです。
誰が考案したのかは知りませんが、今でも人類が作り出した最高の
デザインのひとつだと思ってるくらいです。
もし、子ども達から「先生、(問いかけの)意味がわからないよ。」
とか「先生は、どんな記号が好きなの?」と問われれば、僕はそん
なことを答えるつもりでした。
でも、そこは子ども達。
さっそく、音楽の教科書をめくっては、自分の好きな記号・音符を
探しはじめたのです。
そして、僕がくばった白い紙に好きなマークを描いていきました。
「センセ、いくつ描こうか?」
「そうやねえ、3つまでで、どうだい?」
「ベストスリーやね。うん、それで、いいや。」
以下のお話、僕のように音楽の苦手な人にはチンプンカンプンかも
知れません。
お子さんに聞くか、ご自身の若き時代を思い出して、なんとかおつ
き合い下さい。
一番多かったのが四分音符でした。
理由は「おたまじゃくし」みたいでかわいいとのこと。
「スラー」が好きだと言いう子達もいましたよ。
もともと違う音を、なめらかにさせるのがいいのだそうです。
また「クレッシェンド」が好きだと言う意見もありました。
だんだん強くなっていくのがいいって言うんです。
反対に、ある子は「デクレッシェンド」がいいと・・。
怒りがおさまっていくみたいだと・・。
お母さんから叱られているときに「デクレッシェンド」をお母さん
の頭の上に描きたいんですって(笑)。
これも、多くの共感を呼びましたね。
ある子は「フェルマータ」が好きだと言いました。
あのデザインが眉毛と目のようでかわいいと言うんですね。
ある子は「へ音記号」だそうです。
名前がおならの音みたいでおもしろいよって。
「全休符」が好きだって子もいました。
お休みは長い方がいいのだそうです。
そうそう、「ブレス」が勝利のマークみたいでいいって子もいました。
ねっ。さすが子ども達。素敵な発想じゃないですか。
そんな中、まきちゃんという女の子だけが「八分音符」が好きだっ
て言ったんです。
ご存じですか?「♪」です。
「ふーん、まきちゃん、八分音符が好きなのか。
まきちゃんだけだもんね。
こりゃあ、わけを聞くのが楽しみだなあ・・。」
「あれっ!私だけ?意外やわあ・・・。」
「うん。さあ、教えてくれよ。」
「あのね、八分音符はつなげられるでしょ。」
「えっ?」
「四分音符って2つあってもバラバラに描かなきゃいけないでしょ。
でも、八分音符はつなげて描けるでしょ。
3つでも、4つでもつながるよ。
なんか、手をつないでるみたいで、つながって、つながって、
ながーくなって・・・。
ねっ!いい感じやんっ!」
まきちゃんは思いっきり手を広げて、みんなに説明してくれたのです。
僕は音楽の授業が特に苦手でした。
けど、苦手だったお陰で・・・・。
僕は「八分音符」が好きになったのです。
♪タ・タ・タ・タ・タ・タ・タ・タ・タン・タ・タ・タン♪
2003年2月1日