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           Daily教育コラム第3部
      【発行責任者 はいつ でこ】
 http://village.infoweb.ne.jp/~fwkh8072/deko/gohan/
    バックナンバーも上記にあります。
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▲目次
【1】本日の発信(No.09) -2003/02/09-(通算292号)
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【1】 押される感覚
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かみさんは、鳥の観察が好きです。
それで、フィールドスコープという望遠鏡を買いました。
この望遠鏡、倍率にして、なんと50倍で物を見ることができるん
です。
ただ、その倍率になると、鳥を見るのはとても難しいんですね。
相手が動いちゃいますから・・・
すぐに視界の外に出ちゃうんです・・・。

さすがに、かみさんは上手に動かして楽しめるのですが、僕には、
どうもうまくいきません。
最初はつきあって見ていたのですが、うまくいかないとなると、だ
んだん、いやになっちゃってきます。

そこで、かみさんはこんな一言を投げかけてくれました。
「50倍だから、月のクレーターだって見えるはずよ。」

そうか、月だったら、ほとんど動かないし、こりゃいいや。

かみさんの言葉で、僕はにわか仕立ての月面観測者になったんです。

これには、はまってしまいました。
「おおっ、あれが、人類が初めて降り立ったしずかの海か。」
「なんか、下の方が、メロンのようになってるぞ。」

そんなふうに、はしゃぎながら、夜を楽しんでいました。

かみさんの鳥好きが、僕にも「月の観察」というお得を運んでくれ
たようなものです。

そして、こんなことがありました。

ある晩、いっしょに観察していた当時3才の息子がこう言ったんで
す。

「お父ちゃん、お月様は、いつもひとりやね。」

「ええっ、たくさんのお月様がいると思ってたのん?」

「うん、いろんなお月様がいるでしょ。」

「あっ、わかった。三日月さんとか満月さんのことやね。」

「うん、そうそう。そんなお月様、みんなで、いっしょには出てこ
 んのやね・・・。」

「そうやねえ、いっしょには出てこんねえ・・・。」

「いつも、一人でかわいそうやなあ・・・。」

「ああ、そうやねえ。でも、お日様だっていつも一人だよ。」

僕の言葉に、息子は不満そうに言いました。
「でも、お父ちゃん。お日様は昼やん。お月様は夜やん。暗いんよ。
 暗いとさびしいやん。」

「そうか・・・。暗いとさびしいのか・・。」

「それに・・・。まわりのお星様は、たくさん仲間がいるでしょ。
 お月様だけが一人やん。絶対さびしいよ。」

僕は、返す言葉がうかびませんでした。

何と言ったらいいのでしょうか、3才の子どもの感性に、そうです
ね、「押された」って気がしたのです。

それから半年が経ちました。
かみさんは、今度は鳥の写真に挑戦すると言って、がんばっていま
す。
一方・・・。
ぐうたらな僕は、寒い夜空にこたつから出ていくのがおっくうにな
り、3日坊主の性格も手伝って、月の観察をほとんどしなくなりま
した。
せっかく覚えた月のクレーターの名前もほとんど忘れてしまいました。

けれど・・・。
けれど、ありがたいことに、ホントにありがたいことに、
あの「押された」という感覚の新鮮さはいまだに消えていないのです。

2003年2月9日
 



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