なぜ、聖武さんは、あんなにでっかい大仏を建てちゃったのか。
熱心な仏教信者だったから。と教科書には書いてある。
なんとも、あっさりとね。
でもね。よーく考えると・・・。
これ、おおごとなんだ。
あたりまえのことだけど、聖武さんは「天皇家」の人だ。
天皇家と言えば、「神道」だよね。
神さまを信仰している。
聖武さんが即位したのが724年。
日本の正式の歴史書「日本書紀」が完成したのは、そのわずか4年
前だ。
そこには、天皇家が日本を治める根拠として、
「天皇の祖先が日本に降臨した神様だから。」と書かれているんだ。
つまり、天皇は神さまの子孫だと主張しているんだね。
だから、これまでの天皇は神さまに祈ってきた。
飢饉や、災害があれば、特にがんばった。
また、亡くなった後は、たくさんの神社の神としてまつられてきた。
天皇の存在意義は「神さま」抜きには考えられなかった時代なのだ。
もう一度言うと、それを正式に宣言したのが「日本書紀」なのだ。
これは、当時の国際語の漢文で書かれている。
つまり、国内だけでなく、世界に発信したということだ。
「天皇は神の子孫である。」宣言をね。
なのに、なのに なにぬねの。
その4年後に即位した聖武さんは、神さまでなく、仏さまを選んじ
ゃったってことなのだ。
なにせ、こうとまで言っちゃったんだもんね。
「私は仏のどれいである。」ってね。
「そっかー。
たった4年でねえ・・。
オリンピックはアテネだって言ってたのが、
やっぱ、名古屋に変更ってノリね。(かみさん談)」
うん。
それも、おおごとだけど、聖武さんもおおごとだよね。
特にね、聖武さんは、あの日本書紀の作成にも大きく関わったと思
われる元明(げんめい)天皇の孫なんだ。
「あっ。
あの和同開珎(わどうかいほう)を造った元明さんね。
歴史3冠王ってあなたが書いた女性よね。(かみさん談)」
うん。そうそう。バックナンバーも見てね。
当時の超大国「唐」のように強い国をめざしていた日本にとって、
経済を発展させることはもっとも重要な課題だった。
だから、貨幣造りは、悲願だったんだね。
しかし、当時の日本には良質の銅がなかった。
そこへ、飛び込んできたビッグニュース。
日本初、最上質の銅山発見だ。
元明さんは、たいそう喜んだ。
「ついに、貨幣を造ることができる。」と。
そして、「わいろ」を認める法律まで作り、和同開珎を流通させよ
うとしたんだよね。
ところが、その孫の聖武さんは、こう宣言した。
「私は国中の銅をことごとく使って大仏を造りたい。」
元明さん、ガチョーンではなかったろうか。
お金になるべき銅が、でっかい仏像に変わっちゃうんだもんね。
「そうよ。そうよ。
そんな孫はしかってやればいいのよ。
このババ不孝者!
そんなことしてると、ぶつぞう!
きゃはは。(かみさん喜)」
ひょっとして、ぶつぞうって・・・。
「そう、仏像。(かみさん談)」
こほん・・・。
みなさん、すみません。
かみさんは、更年期なのです。
平常心を保てない日々を送っているのです。
「ちょっと、待ってよ。
平常心で思い出したわ。
あの平城京を造ったのも元明さんよね。(かみさん談)」
まってました、そのリアクション。
そうだよね。
平城京も、日本の悲願だったよね。
落ち着いた政治を行うために、どっしりとした首都が必要だった。
唐の都のように、壮大で、永久的に使える日本初の本格的な首都。
これも、元明さんの手によって成し遂げられたものだよね。
でも・・・。
なんと、孫の聖武さんは天皇になって、ころころ、ころころ都を変
えていったんだ。
多いときは1年に3回もやっちゃたんだって。
「えーっ!
年に3回も引っ越ししたの!
ばあちゃんが、せっかく平城京を造ったのにねえ。
まったく何を考えているのやら・・。」
だよねえ。
個人の引っ越しでも1年に3回もやると けっこう大変だよね。
それが、都だもんねえ。
想像を絶する大変さだよね。
おばあちゃんのやった3つの歴史的偉業を、ぜーんぶ、ひっくり返
しちゃったとも言えるよねえ。
「そうよ、そうよ。
仏の顔も3度。もう許せないわね。(かみさん怒)」
あのう。
3度だから、ぎりぎり、いいんじゃないですか?
「んまっ。
あなた、更年期の私を追いつめる気?
それにしても、落語みたいな話よね。
熊さんが、お金使い果たして、夜逃げ同然に長屋を転々とするっ
て感じ。(かみさん談)」
おおっ!
なんたる、偶然!
今日は、すごく流れがいいぞ。
たぶんね、その長屋が関係してるんだ。
「えっ?長屋?(かみさん談)」
うん。
「長屋にすんでたの?聖武さん。」
まさかあ、天皇が長屋に住むことはないよ。
「じゃあ、壊しちゃったの? 長屋。」
いや。
うらまれちゃったんだよねえ。長屋・・・。
「へ?(かみさん談)」
【続く】