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                  「カメとウサギの昼寝(下)」
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ごろりと寝ころんだ次郎の目に、青い空が広がりました。

次郎は小さな声で歌いました。

「おいらは、次郎、旅ウサギ。
 風に誘われ、旅の空。
 えっちらおっちら一人旅。」

そよ風がぽかぽかを運んできました。

「ふわわ。」

大きなあくびをして、次郎は、本当に眠りこんでしまいました。

しばらくして、子ガメがやってきました。

子ガメは眠っている次郎を見て、ビックリしました。
そして、起こさぬように、そうっと横を通り過ぎていきました。

やがて、子ガメの目にゴールのいちょうの木が見えてきました。

そこには、森のみんなが待っていました。

「おおっ。すごいぞ、子ガメ。」
「あの旅ウサギに勝ったのか。」
「見直したよ。子ガメ君。」
「よかったね。よかったね。」

みんなは口々にいいました。
その声がそよ風に乗って次郎に届きました。

ぽとり。

気持ちよさそうに眠っていた次郎の頭に、木の葉のつゆが落ちまし
た。

「ああ・・。
 なあんだ、夢だったのか。」

お日様はもう西の空に沈もうとしています。

「もうすぐ夜か。
 とっくに子ガメ君もゴールしただろうな。
 よかった、よかった。」

次郎は起きあがり、おしりをはたきました。

その時です。
次郎の横から声がしました。

「次郎君、もう起きたのかい?」
それは子ガメの声でした。

次郎は目をクリクリさせて言いました。
「こ・子ガメ君。
  君、いったい、どうしたんだ?」

子ガメは背伸びをしながらこう言いました。

「ふわわ。
  次郎君の昼寝がとっても気持ちよさそうだったから、僕も一緒に
  寝ていたんだよ。
  ああ、いい気持ち・・。」

「いい気持ちって・・。
  子ガメ君、おいら達は何をしていたか知っているのかい?」

「えっ?
  何をって、昼寝にきまってるじゃないか。」

「そうじゃないよ。
  かけっこだよ。
  おいらと君はいちょうの木まで競争していたんじゃないか。
  忘れたのかい?」

今度は子ガメが目をクリクリさせました。

「あっ!そうだった!かけっこしてたんだ!」

二人はクリクリの目を合わせて、笑い始めました。

次の日になりました。

森は、今日も気持ちいいそよ風に包まれました。

そよ風はいろんな物を運びます。
きれいな花びらや、甘い素敵な香りだけではありません。
森のみんなの耳にこんな歌声が運ばれてきました。

「おいらは、次郎、旅ウサギ。
 風に誘われ、旅の空。
 えっちらおっちら一人旅。
 だけど、ちっともさびしかない。
 思い出おともに、旅ウサギ。」

おわり。



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