「あこ姉ちゃん。」
男の子が言いました。
「なあに、ふう君。」
女の子が聞きました。
「昨日、お水あげたよね。
いっぱい、いっぱい、あげたよね。」
ふう君は手をいっぱいに広げて言いました。
「うん。いっぱい、いっぱいあげたよね。」
あこ姉ちゃんは、こくんとうなづいて言いました。
「だのにさあ、なぜ、からからなの?」
ふう君は、かさかさになった土を小さな指でなぜました。
あこ姉ちゃんは、ニコリとしました。
あの時のことを思いだしたからです。
あの時・・。
あこ姉ちゃんが今のふう君と同じ4才だった頃、同じようにお母さ
んに聞いたことがあるのです。
お母さんは、こう教えてくれました。
「あのね、あこ。あこものどがかわくでしょ。
お日様ものどがかわくの。
それでね、植木鉢のお水を少しずつ飲んでるのよ。」
あこ姉ちゃんは、同じようにふう君に教えました。
「そうなん。
お日様が飲んじゃったん!
なら、いいや。」
ふう君は、あの時のあこ姉ちゃんのように、いっぱい、いっぱい
ニッコリしました。
ある日のことです。
学校から帰ってきたあこ姉ちゃんが、お部屋のすみっこでションボ
リしていました。
ふう君が心配そうにのぞき込みました。
「あこ姉ちゃん、あこ姉ちゃん。
どうしたの?
あっ。泣いてるやん。
あこ姉ちゃん、いっぱい、いっぱい泣いてるやん。」
ふう君はあこ姉ちゃんの手を引っ張りました。
「あこ姉ちゃん。
行こうよ。行こうよ。
お外に行こうよ。
お日様に飲んでもらおうよ。
いっぱい、いっぱい、飲んでもらおうよ。」
「ふう君っ!」
あこ姉ちゃんは、ニッコリしました。
あの時のふう君のように、いっぱい、いっぱいニッコリしました。
いっぱい、いっぱい・・・。
おわり。