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【1】今回の発信
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「コガネ虫の願い事」
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ある夏の夜のことです。

小さなコガネ虫がとろけそうなクヌギの蜜を見つけました。

「ああ・・。なんていいにおいなんだ。
 ようし、いただきまーす。」

その時です。
のしのし・・。
後ろから近づいてくる物音がしました。

大きなツノを持ったカブト虫の足音でした。
カブト虫は低い声で一言こう言いました。

「おい、どけよ。」

コガネ虫は蜜をゆずり、しょぼんとした顔で言いました。

「ああ・・。
 僕にもツノがあればよかったのになあ。
 神様、お願いです。
 今度生まれ変わる時は、僕にもツノを下さい。」

そこへ、今度は、がんじょうそうな はさみを持ったクワガタ虫が
やってきて、カブト虫に言いました。

「おい、どけよ。」

枝の陰から見ていたコガネ虫は、ぽつりと言いました。

「ああ・・。
 僕にもあんな はさみがあればなあ・・。
 神様、2つ目のお願いです。
 今度生まれ変わる時は、僕にもはさみを下さい。」

カブト虫とクワガタ虫は、にらみ合い、やがて、ツノとはさみをぶ
つけ始めました。

「えい、えい、えいっ。」

「これでどうだ。」

「こっちこそ、こうだっ。」

ケンカはどんどん激しくなっていきました。

もつれあった2匹はクヌギの枝から足をふみはずしてしまいました。

「ああっ、あぶないっ。」
コガネ虫は思わず目をつぶりました。

ひゅうー、どっすん。

すごい音がしました。

そうっと目を開けたコガネ虫はびっくりしました。

地面に落ちた2匹がすぐに立ち上がったのです。

じょうぶなよろいのおかげでした。

「なんて、じょうぶな よろい なんだろう。」

コガネ虫はうらやましそうな顔をしました。

「神さま、最後のお願いです。
  今度生まれかわる時は、あんな・・。」

そう言った時、下から2匹の声がしました。

「えい、えい、えいっ。」

「今度こそ、これで、どうだっ。」

またケンカが始まったのです。

それは、さっきよりもはげしく、いつまでも終わりそうにない闘い
でした。

「ごくり・・。」
コガネ虫はつばを飲み込みました。

そして、蜜を吸うことも忘れ、ずっとずっと続くケンカを見ていま
した。

カブト虫とクワガタ虫はへとへとになっても闘いをやめませんでした。

やがて、朝日が顔を出しました。

「ああ、もう朝か・・。
 神さま、最後のお願いです。
 今までの願い事は全部忘れて下さい。」

彼は羽を広げ、大空に飛び立って行きました。

夏はもうすぐ終わります。

おわり。



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