「あおむしと妖精」を読んでいただき、ありがとうございました。
子どもの頃、昆虫図鑑を見ていて、びくっりしたことがあります。
「さなぎ」についてのことです。
あおむしは、「さなぎ」になり、チョウになります。
中間にあたる「さなぎ」の殻の内側では、劇的な変化が起きている
そうです。
みずから、あおむしだった時の体をどろどろに溶かし、チョウとし
ての体を新しく作り上げているというのです。
ものすごくたくさんのエネルギーが必要なため、「さなぎ」は動く
こともせず、じっとしているのだそうです。
つまり。
チョウは、まったく新しい生き物として「さなぎ」から出てくるの
です。
16本の足で、懸命に はいずりまわり、キャベツの葉を食べて生
きてきた「あおむし」としてのすべてを捨てて生まれ変わり、羽ば
たくのです。
「すごいな。」と思いました。
でも。
でも、なんだか哀しくもあったのです。
軽やかにとぶチョウの持つ哀しさ。
哀しさの正体はわかりませんでしたが・・。
僕は、それを感じました。
立体感のない影も影として認識できるように、
子ども心に、その不思議な哀しさの存在だけは認識できました。
そして、今。
大人になった自分がいます。
たくさんの喜びや悲しさを味わい、たくさんの人に助けられ、いく
ぶんの人助けをし、欲張りな自分を後悔し、うぬぼれたり、嫌悪し
たり・・。
そんな経験の中から、僕は、後悔や悲しみ、嫌悪を引きずります。
時には。
引きずってきたことのすべてを捨ててしまいたい、と思うようなこ
とだってあります。
そうすれば、大空に舞うことができるのではないか。
そんなふうに思うことがあります。
でも、ふと思うのです。
あの時 感じた哀しさ。
何十年の年月を隔てた今でも・・やはり、
あの哀しさは、影のまま消化しきれずにいるのかなと・・。
そして、とても逆説的なことですが、
その不透明感を内包することによってのみ、幸福が幸福たり得るの
かもしれないとも感じるのです。
ありがとうございました。
次回も、おつき合い頂けたら 幸せです。
ではでは。
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【2】こんな「お話し」でした。
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「あおむしと妖精」
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あおむしが歩いていますと、小さな妖精が倒れていました。
妖精の背中には、すきとおったうすい羽が2枚ついていて、見ると
小さな穴があいていました。
「ははあ、アザミのとげにささったんだな。」
あおむしは、ずっと前に、同じように困っているトンボに出会った
ことがあるのです。
妖精はこくんとうなづきました。
「心配いらないよ。」
ずっと前に、トンボにしてあげたように、口から白いねばねばする
糸をしぼりだし、妖精の羽の穴をふさいであげました。
妖精は そうっと羽ばたいてみました。
すると小さな体がふわりと舞い上がりました。
たいそう喜んだ妖精は、おれいがしたいと言いました。
あおむしは、少し考えて言いました。
「そうだ。
虹色の宝石をくれないかな?
僕は、一度だってきれいと言われたことがないんだ。」
妖精は右手に持っていた金色のつえをふりあげました。
その先からあふれでてきた光のつぶが、あたりの石をつつみこみ、
虹色の宝石に変えました。
16個の指輪ができました。
「ああ・・。
僕の足の数だけ作ってくれたんだね。
どうも、ありがとう。」
妖精はにこりとほほえみ、ふわりと飛んでいきました。
あおむしは、全部の指輪を足につけ、誰かがくるのを待ちました。
少しして、ミミズとオケラがやってきました。
「なんてきれいなあおむしだ。
ステキだなあ。」
ふたりは、そう言いました。
はさみむしも、だんごむしも、そう言いました。
かたつむりも、てんとうむしも、そう言いました。
あおむしは、とても良い気持ちになりました。
やがて、夜がやってきました。
さあ、お家に帰ろう。
そう思ったあおむしはびっくりしました。
足が動かないのです。
宝石はとても重く、ぴくりともしません。
「うわあ、こまったぞう。」
いくらがんばっても、全然動けませんでした。
ずいぶん時間がたちました。
力つきたのか、目も口も動かなくなってしまいました。
朝がきて、それから、また夜がきました。
あおむしは、木の実のように固くなり、じっとしたままでした。
7回目のお日様が顔を出したときです。
「ぴしぴしぴし」と音がしました。
あおむしの背中がわれる音でした。
その割れ目から小さな黄色いちょうちょが出てきました。
朝の光を受けて、きらきらと輝く羽。
ちょうちょは青空に羽ばたきました。
ちょうちょは、自分があおむしだったことも、
そして、妖精にあったことも、すっかり忘れていました。
おわり。