小さな花がありました。
一人の男の子が近づいてきて言いました。
「きれいな花だなあ。」
小さな花はうれしくなりました。
「お父ちゃん、ここにきれいな花があるよ。」
男の子は父さんをよびました。
小さな花は、もっとうれしくなりました。
お父さんがやってきていいました。
「本当だ。きれいだなあ。」
小さな花は、もっともっとうれしくなりました。
「この花の名前知ってるかい?」
とお父さんが聞きました。
「知らないよお。」
と男の子が言いました。
小さな花はびっくりしました。
自分に名前があるとは知らなかったのです。
「スミレ」と言うんだよ。
「へえ。
お父さん、物知りだなあ。
すごいや。
じゃあ、あっちの花はなんていうの?」
男の子が遠くを指さしました。
「どれどれ?
ああ、あの黄色い花だね。
よし。あっちへ行ってみよう。」
二人は行ってしまいました。
小さな花が、小さな声で言いました。
「名前なんて、いらないや。」
小さな花は、小さなちょうちょうを待ちました。
おわり。