漫画の登場人物の名前はとても個性的である。
ここでは、シリアス漫画にしぼって、その命名の由来に思いをはせてみたい。
以前に「キャプテン翼」が大ブレイクした。主人公「翼」くんは大空に舞うかのごとき
明るさを、そして力強さを振りまいた。実際にその年に生まれた男の子の名前ベスト5に
「翼」が入るほどの影響力を持った名前だった。
事実、私が知っている範囲でも三人の「翼」君がいる。
新しい波を起こしつつあったサッカーに「翼」が似合っていた。
一方で思い入れよりも記号論からスタートした命名もある。
ガンダムウイングの「ヒイロ」「デュオ」「トロワ」、、などその好例である。
お分かりのように「1」「2」「3」、、という数列をベースに命名している。
響きを大切にした印象に残る命名方法である。未来、宇宙を感じるのはそのセンスによるのであろう。
漫画界に大きな足跡を残した巨星原作者「梶原一騎」、彼はどのような命名法を採ったのだろうか。
彼の代表作である「巨人の星」を思い返してみた。
この作品は当時、隆盛を極め、漫画を子供の物から大人の趣味へと引き上げたと言われる。
その勢いは30年たった現在でもテレビコマーシャルに使われるほどのものすごさである。
その主人公の名前は「星 飛雄馬(ひゅうま)」である。
そのセンセーショナルな存在のにもかかわらず私の周りには「飛雄馬」君はいない。
彼は体格が小さく、球質が軽いという大きなハンデを持った少年であった。
その彼に梶原は「雄々しく飛ぶ馬」と名付けた。
なぜ、そのように命名したのだろうか?
どうしても小柄な彼に「馬」はふさわしくないのだ。
そして、彼は本当によく泣いていた。「雄々しく」ないと思われるような面をたびたび読者の前にさらした。
もちろん、苦しさばかりに泣くのではない。人間的な感動が彼を泣かせるのだ。
野球人形として育てられた彼は、その人生にも悩む。そして人間として成長していく。
その人間性形成のドラマが私たち読者の琴線に触れたのだ。
おそらく梶原は人間ドラマとしての「ヒューマニズム」から「ひゅうま」の響きを採ったのだろう。
そして、それに漢字を当てたのだろう。
しかし、社会人として「感動に泣く」ことさえ忘れかけた私には、やっと今理解できる。
あれほどの涙をさらした「ひゅうま」は、やはり「雄々しく飛ぶ馬」だったのだ。