日本漫画界のギャグ部門は「山上たつひこ」を抜きには語れまい。
彼は「がきデカ」(少年チャンピオン)で、その類い希な漫画家としての才能を世間に披瀝した。
それまでも「光る風」などの作品でSF風の作品を公表してはいたが、
まだまだメジャーとは言い難かった。
「がきデカ」は、その不条理さゆえ読者をひっぱった。
それまでのギャグ漫画はどうだったか?
赤塚作品(「バカボン」など)も永井作品(「ハレンチ学園」など)もセンセーショナルであり、
社会の良識人を震撼させ、批判の対象ともなった。
しかし、どのような作品もギャグはギャグとしての論理を持ち、読者に有る程度の予測を許した。
「がきデカ」はどうだったか!
この作品は脈絡を拒否した史上初の作品だったと思う。
主人公こまわりくんの突然の雄叫び「アフリカ象が好き!」はすべての筋書きを壊した。
もちろん山上独特の計算があったのだろうが、少なくとも、この叫びを予想した読者はいなかった。
山上とはいったいどんな人間なのだろうか?
私は幼い読者の一人として、かなり興味を持っていた。
 「山止たつひこ」が少年ジャンプに登場したのはそんな時である。
読んでおわかりのように、パクリペンネームである。
しかも「山止たつひこ」もすばらしい才能をもったギャグ漫画家だったのである。
つまり同時期に「山上たつひこ」「山止たつひこ」という2人の天才漫画家が存在したのだ。
さしずめ漫才師なら「Wたつひこ」とでも名乗っているところだろう。
しかし、彼らはコンビではなく「チャンピオン」「ジャンプ」というライバル雑誌の看板なのだ。
パクラれた不条理の天才「山上」はどうしたか、、。
なんと「山止」に抗議したのである。
私の中で「山上たつひこ」への興味は消えていった。
もちろん、何ら「山上作品」が色あせたわけではない。
結局「山止たつひこ」はそのペンネームを捨てた。
「山止」は現在(平成11年)もその作品をジャンプに連載している。
それは「がきデカ」同様に警官をモチーフとした下町ギャグ「こちら亀有前派出所」である。




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