あなたは恋に溺れたことがあるだろうか?
例えば、あなたが何百人もの配下を持つリーダーだったとしよう。
そのあなたの前にすばらしい女性があらわれた。
女性もあなたを愛し、あなたと二人だけの生活を望む。
あなたは恋に溺れる。
仕事も手に着かないほど溺れる。
あなたの部下達は元のあなたに戻ってくれと言う。
しかし、あなたは恋を選ぶ。
2人で逃避行の旅に出る。
そのあなたを追って部下がやってくる。
あなたがその昔、初めて持った腹心の部下だ。
命をかけて戻ってくれと言う部下。
「いかないで」という女性。
すさまじい葛藤があなたを襲う。
弱ってしまうけれど一度は体験してみたい葛藤である。
このような大人の状況を少年漫画に取り入れた作品がある。
タイトルは何と「男一匹ガキ大将」である。
作者は男を描かせたら天下一品の本宮ひろ志。少年ジャンプにおける出世作だ。
上記の設定と「ガキ大将」は完全に不協和音である。
しかし、この漫画ときたら”村のガキ大将”が成り上がり、全国の学校を制覇し、
株の売買戦争に勝ち、ホームレスを束ね、アメリカの財閥と闘うというすさまじいものなのだ。
そんな不協和音など飲み込んでしまうブラックホールのようなパワーを持っている。
その成り上がりの1シーンの中で主人公、戸川万吉が”恋に溺れる”。
結局、万吉は恋を捨てる。
その時、はいたセリフが「限界じゃぁ、これが、わいの限界じゃぁ。」である。
恋に溺れることが”限界”というのだ。
作者、本宮の「結局、真の男は恋には溺れない」っていう強烈な価値観がここにある。
「だけど、ナヨナヨすることもあるんだよ」っていう人生観もここにある。
実はこのナヨナヨ悲恋展開を幼い私は好まなかった。
しかし、今思う。この場面がなければ、その後の本宮もなかったのではないか。
「男一匹ガキ大将」はおもしろさ、楽しさ、すごさ、という漫画の常識に
価値観や人生観というファクターを持ち込んだ代表的な作品になった。