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●「幽遊白書の心地よい裏切り」

 集団戦闘をバックグラウンドとした漫画はかなりある。
古くは「サイボーグ009」「リングにかけろ」「聖闘士
星矢」「サムライトルーパー」などなど、かなりの歴史を
もっている。
 それぞれの闘いは、もちろん個性的でスポーツから人類
防衛までと幅広い。

 しかし、そのどれもが闘いの中にのぞかれる「愛」を裏
側に描いている。 それは、友情であったり兄弟愛であっ
たり家族愛であったりする。やはり闘いの壮絶さに比例す
る深い心のモーションが主題として不可欠なのであろう。

 「幽遊白書」も上記の作品群の中に入る。
 しかし、「幽遊白書」は他の作品と決定的に異なる要素
を持っていると思う。それは集団の構成要因である。
 もちろん集団であるから、それぞれの個に強さのレベル
の違いがある。
しかし多くの場合、その差はいわゆる「段違い」ではない。
お互いがお互いを認め、その能力に尊敬をしあう場面がある。
平たく言えば「いい勝負ができる」仲間なのだ。
 「幽遊白書」も1点を除いて、そのセオリーを踏んでいる。
その1点とは「桑原」の存在である。彼だけが”闘いの天才”
たる他の登場人物と違い”弱い普通”の人間なのだ。
(もっとも後半では特殊な能力を身につけるが、、。)
 何せ主人公の「幽助」にはパンチ1発当てることができない
ほど弱いのだ。また、いわゆる”かわいい系”でも”美形”で
も、同情をさそう”ひ弱系”でもない。つまりキャラがたって
いないのだ。なぜ作者は1弱の彼を戦闘員の中に入れたのだ
ろうか?私は「桑原」はそのストーリー展開の中で忘れ去られ
る脇役の1人にすぎないと思っていた。その思いこみは見事に
裏切られた。その心地よい裏切りの中にこそ、「幽遊白書」の
特殊性がある。そして自分の弱さを自覚した「桑原」本人また
彼を囲む他者の心理展開を読むことが醍醐味の一つだと思う。
(了)



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