「眠れなくなっちゃうの。-マグマのなげき」
一昔前の漫才の話になる。
春日三球・照代(かすがさんきゅう・てるよ)という夫婦漫才のコンビがいた。
1970年代に活躍し、
「地下鉄の列車はどこから、いれるのでしょうね?
それを考えてると夜も眠れなくなっちゃうの。」
という漫才史に輝く有名なフレーズを残し、いわゆる「地下鉄漫才」で一世を風靡した。
言われてみると・・なるほど、である。
地下鉄う〜ん、どうなってんだろう。
たしかに、あれ、どっからいれてんだろう。
実に素直な疑問だよなあ・・。
もちろん、マンガにも、そういう場面がある。
私が子どもの頃である。
偶然にも、そういう場面に出くわしてしまったのだ。
みなさん、「マグマ大使」というマンガをご存知だろうか?
作者は手塚治虫。
テレビの実写化までされた大ヒット作品である。
ただ、1960年代の作品ゆえ、ご存じない方も多いだろう。
で、少し、説明。
地球侵略をたくらむ宇宙人ゴアを、ロケット人間のマグマ大使がやっつける、
そういうストーリーである。
で、このマグマ大使、実は、妻と子がいる。
妻はモル、息子はガム。
で、まあ、家族でなかよく無人島みたいなところで暮らしている。
ゴアの手下たちによって地球が侵略されようとすると、地球人の少年マモル君が、
マグマ大使たちを呼び寄せるのだ。
連絡手段は笛。
なんか、時代劇の捕り物バージョンみたいだが、とにかく笛を吹く。
笛を1回吹くと息子のガム。
2回で妻のモル。
3回吹くとマグマ大使がやってくる設定だ。
事件の程度によって、マモル少年は、呼び出す相手を変えていくのだ。
おまわりさんを呼ぶか、機動隊を呼ぶか、自衛隊に出動してもらうか・・。
そんな感じの判断をマモル少年は行う。
マグマ大使ごっこをしていた私たちは気づいた。
この設定、よさそうだが、実は、ちょっと困るのだ。
なぜ、手塚ともあろう者が、こんな設定にしてしまったのだろうか。
さて、みなさんは、どこが、どう困るかおわかりだろうか?
ちょっと解説しよう。
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一回笛が鳴る。
息子のガムが出動だ。
「急げ、ガム。地球がピンチだ。」
テレビではスムーズに展開されていく。
しかし・・・。
実際なら、ガムは出動できないのだ。
なぜなら、もしかすると、2回目の笛が鳴るかも知れないからだ。
そうすれば、息子はお呼びではない。妻の出番なのだ。
いや、2回目が鳴っても、まだ妻は出動できない。
もう、おわかりだろう。3回目が鳴るかもしれないからだ。
マグマ一家は、笛が鳴ると、緊張した面持ちで耳を澄まさねばならない。
マモル少年が呼んでいるのは、僕か、私か、俺か、なかなか判明しないのだ。
こんなことが、あっていいのだろうか。
地球は危機なのだ。緊急事態なのだ。
しかし、マグマ一家は、出動できない。
「笛が何回鳴るか、考えたら、夜も眠れなくなっちゃうの。」
正義の使者は、嘆きたいに違いない。