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【1】幸福感(2)
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まず、前回発信した「ますみちゃんのなぞなぞ(1)」のつづきを
お読み下さい。

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■「ますみちゃんのなぞなぞ(2)」
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その(1)の概要
喜田ますみちゃん(6年生)は担任の僕に色鉛筆を貸すことを少し
ためらいました。
そして、「先生、私と手の大きさ比べをしよう。」と言ったのです。
僕には、なぞなぞのような感じがしました。
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「うん、いいけど、色鉛筆となんの関係があるの?」
「とにかく、比べてみてよ。」

教室にいた他の子ども達も集まってきました。

「よし、じゃあ、比べてみよう。」
僕はますみちゃんの手のひらに自分の手を合わせました。

「ひゃあ、先生、大きい!!」
ますみちゃんは言いました。

周りで見ていた子ども達も「先生の勝ちぃ。」なんて言い出しまし
た。

「先生やっぱり、だめや、、。」
ますみちゃんの言葉に僕にとっての謎は深まるばかりです。

「えっ、何がだめなの?」
「先生の手が大きすぎるんや。」
「そりゃあ、先生の方が大きいに決まってるよ。」
「うん、だから、使いにくいはずや。」
「えっ!色鉛筆のことかい?」
「うん、色鉛筆や。私の色鉛筆、短いんや。」

そう言ってますみちゃんは色鉛筆のケースを持ってきました。
鉄製のそのふたを開けてみて、僕はビックリしたのです。
どの色鉛筆もますみちゃんが言ったように、とても短かったのです。

そして、その鉄製のふたの裏にはこう書いてありました。
「ぱんだぐみ:きだ ますみ」

「喜田さん、これ、、、。」
「うん、これ、保育園に入るときにお母ちゃんが買ってくれたんよ。
 ずっと、つかっちょったら、こんなに短くなったんよ。
 だけん、先生のように大きな手の人には使いにくいはずや。」

「すごーい、ますみちゃん大事にしちょったんやねえ。」
「本当や、すごいなあ。私のなんか、もうどこにあるかわからんよ。」
「先生、どんだけ つこうたか 測ってみてよ。」
 周りの子ども達が口々に言いました。

当時僕が発行していた学級通信にはこんなタイトルとデーターがあ
りました。
タイトル:「喜田さんの10.7センチメートル」
「色鉛筆の元々の長さ16センチメートル。
 1番みじかい黄色の色鉛筆の今の長さ5.3センチメートル。
 その差、10.7センチメートル。」

僕には、残った5.3センチの色鉛筆はもちろん、いや、むしろ、な
くなってしまった
10.7センチの存在を大事にしているますみちゃんを感じたのです。

ますみちゃんのなぞなぞの答えは、とても、暖かく、うれしいもの
でした。

しかし、その当時の僕の教卓の上には、悲しい光景があったのも事
実なのです。
それは、たくさんの物でみちみちた「落とし物箱」でした。
ますみちゃんの答えは、僕に対する新しい問いかけに他ならなかっ
たのです。
そして、僕は、残念ながらその答えを、まだ見つけていません。
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僕の子ども達はこのますみちゃんに「幸せ」を感じたと言います。

なぜ、子ども達がそう感じたのかはよくわかりません。
子ども達に「どうして、そう思ったの?」と聞くと
「自分でもよくわからんよ。けど、なんとなく幸せそうやもん。」
と答えるのです。
とにかく、何らかの思いをもとに自分なりの「幸福感」を作ってい
るのだろうと思い、それは僕にとって嬉しいことでもありました。

僕はと言えば、当たり前のことですが、子ども達の幸福感とは少し
違います。
かみさんとも、もちろん違います。
そして、それぞれの違った幸福感を家族で話すことは、とても有意
義だと思っています。

僕は一言で言えば「幸福は『向上心』をなくすこと」だと考えてい
ます。

(No.19につづく)



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