やってきました。金曜の夜の歴史エンターテイメント。
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▲バックナンバーはこちらです。↓
http://village.infoweb.ne.jp/~fwkh8072/deko/his/
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■お知らせ(メール頂きました)
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■川瀬さんから、
「淡海三船が天皇の漢風諡号(かんぷうしごう)を撰進した意味」
というタイトルでメールを頂きました。↓
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毎号楽しく読ませていただいています。
はいつさん流の「真説・蘇我氏の時代」を楽しみにして
います。
でもその前に、22号ではいつさんが指摘された、淡
海三船が歴代の天皇の中国風のおくり名を付けたという
話が意味するところについてちょっとお話しておきま
す。
この話は「歴代の49人の天皇に中国風のおくり名が
ついていなかったので奈良時代後期になって始めてつけ
た」と言う程度の簡単な問題ではありません。
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続きは下記にあります。ぜひご覧下さい。
http://village.infoweb.ne.jp/~fwkh8072/deko/his/iken/15.htm
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■お詫びとお礼。
目につづき、ぎっくり腰までわずらってしまいました。
情けない、悲しい春を送ってしまいました。
パソコンにむかえるのも、時々、しかも5,6分程度。
頂いたメールへの返信も滞り、メルマガも発信できない日々が
続きました。
そんな僕のメルマガをこうして読んで下さっているみなさん。
本当にありがとうございます。
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第6章 蘇我氏の時代
(6) 「幻のためいき」
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天武天皇の発案により作成された歴史書「日本書記」・・・。
その完成までに費やされた半世紀におよぶ時間は、様々な人間たち
のドラマを生み出した。
中でも、実際に筆をとった執筆者たちの苦悩は深く、そして重かっ
た。
しかし・・・。
歴史をつづりあげた人間たちの歴史は残らない。
英雄の名を歴史に記すという大業をなしとげた彼ら・・・。
彼らの名前はもちろん、彼らの内にあるその深さも重さも、歴史か
ら消え去っていく・・・。
あたかも、彼らの存在そのものまでが幻であったかのように・・。
「なんだか、プロジェクトX(2002年に大ブレイクしたNHKのドキュ
メント番組。)みたいな感じになってきたわね。」
かみさんがそう言った。
僕は「たしかに、そうだな。」と思い、中島みゆきさんの唄を口ず
さみながら、先に進んだ。
・・・・。
ここに、その幻となった一人の男がいる。
日本書記の執筆者となった一人の男である。
現代に生きる我らにとって、その名を知ることは不可能であるが、
「日本」という国が形をなしてきた8世紀、彼はたしかに存在した
のだ。
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ウグイスのさえずりが聞こえ始めた季節・・・。
ある男が、自宅の一室にいた。
しんと静まり返った部屋。
こもりっきりの重苦しい日々が10日間も続いている。
小さな窓からのぞめる梅の花の淡い色とその香りだけが、ほんのひ
とときだけ、彼の心の縄を解いてくれる。
しかたあるまい・・・。
彼は、ふうとため息をつき、そして、つぶやいた。
「誰か」を作り上げるしかあるまいな・・・。
そんなことが許されるかどうかは、今は考えまい。
これは神なる天皇のご意志だ。
そして、それが我が国の歴史を記すという大役を仰せつかった我の
使命なのだ。
我も、仏の教えを学ぶ身。
わが国に、仏の道を通して下さった馬子様のご功績は充分に承知し
ている。
馬子様なくして、今の我が国はなかったはずだ。
その馬子様を・・・。
馬子様のご一族を・・・。
我はおとしめねばならぬのか・・・。
いや・・・。
だめだ、考えてはならぬのだ。
馬子様と呼ぶこと自体、やめねばなるまい・・・。
我は鬼となり、「馬子」と呼び捨てることとするぞ。
もうすでに、「馬子」の息子の名は「蝦夷(えみし)」と決めてい
る。
「馬子」により、満月のごとく満ち足りた世を作れと付けられた
「足子(たりし)」という息子の名を、我は歴史の上から消し去る。
そして、さらにその息子は「入鹿(いるか)」と記す。
いやしき名により、その人格をも否定するのだ。
いや、否定だけでは足りぬ。
少なくとも「入鹿」には悪の化身になってもらわねばならない。
我の最終的な役目は「入鹿」を徹底的な悪にすることなのじゃ。
さすれば、今からおよそ100年前、「藤原鎌足(かまたり)」様
が、「入鹿」を殺し、蘇我の本家を葬(ほうむ)り去ったことが、
正しき神のご意志にそうものとなるのだ・・・。
しかし・・・。
簡単にいきそうにはないぞ。
問題となるのは、「馬子」とその息子「蝦夷」の行った業績じゃ。
我が国初の女帝を支えたあの親子がなしとげた功績は、じつに、やっ
かいだ。
特に・・・。
特に、「蝦夷」が中心となり作り上げた17条からなる憲法、そし
て冠位十二階・・。
どれもが、100年の時に色あせることなく、我が国の制度の礎
(いしずえ)として脈々と受け継がれている・・・。
そうそう、かの大国「隋(ずい)」と真正面からの関係を築いたの
も「蝦夷」じゃ。
業績そのものを消し去ることは、もはや不可能だ。
ならば、その業績を残した人物を作り上げるしかない・・・。
「蝦夷」ではなく、別の「誰か」の業績として歴史に残すのだ。
そうじゃ・・・仏の道を通じた馬子の功績をも「誰か」のものにす
ればよい。
さすれば、仏の教えを広め、国の基礎を作り上げた「誰か」は英雄
となる。
しかし・・・。
しかし、ひとつ難しいことがあるぞ。
一人の英雄を作り出すということは、その一族をも作り出すことに
なる。
そして歴史の上に作り上げた一族は、
歴史の上で消し去らねばならぬ・・・。
きれいさっぱりと葬り去らねばならない。
どうやって、消し去るか・・・。
そうじゃ。
ここで、「入鹿」を使おう。
我が作り出したその英雄の一族を「入鹿」の手で抹殺させるのじゃ。
「入鹿」を悪の化身とできるぞ。
男はこぶしをにぎった。
手の中にうっすらと汗がにじんでいた。
その時、ふいに強い風が吹き、ウグイスが驚いたように飛び去った。
「入鹿」が悪の化身じゃと・・・。
我こそ、恐ろしき悪の化身そのものじゃ・・・。
我にこそ仏罰が下るのではないか・・・。
それも、しかたのないことじゃ・・・。
しかし、願わくば・・・。
我の記した書を読むことになる後の世の人々よ・・・。
その書の中から、我のこの苦しみと真実を読みとってもらえぬか・・・。
我の記した歴史は蘇我一族を暗闇に落とし込むための歴史なのだ。
いや・・・。
我は・・・・。
我は一筋の光を残そう・・・。
暗闇の中から真実を見いだせる光を書き残そう・・・。
歴史の中に、我が作り出さざるを得なかった英雄・・・。
馬子一族のすべての光を奪い去る英雄・・・。
その名に、我は光をたくすぞ。
淡い光となるやもしれぬ・・・。
英雄には馬子一族の光が宿っているのだ。
また、春を告げる風がふき、彼の髪をゆらした。
その風は彼のため息をも吹き消し、幻の中へとつれさった。
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日本の正史とされる「日本書記」。
その書には、ひとりの英雄が記されている。
現代の我々が「聖徳太子」と呼び親しんでいる人物である。
しかし、日本書記に「聖徳太子」の名はない。
歴史上の他の皇子の名からは想像もできないほどの不思議な名が付
いている。
彼の名はこう記されている。
「うまやど」の皇子。
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