「事件後にもっとも得をした人物を疑え」・・。
古典的ではあるが、これが、真犯人さがしの基本である。
「蘇我入鹿、暗殺事件」・・・。
中大兄皇子は、事件後に、やっと次期天皇候補のひとりになったに
すぎない。
正確に言えば、暗殺実行当時、
彼は「葛城皇子(かつらぎの みこ)」と呼ばれていた。
暗殺成功後に大兄皇子(おおえの おうじ=次期天皇の候補)に
なっただけなのだ。
では、暗殺後に、天皇になったのは誰か・・・。
それは、中大兄皇子のおじさん、「孝徳(こうとく)天皇」だっ
た。
ちょいと複雑だけど、この人、中大兄皇子の妹と結婚してもいる。
でまあ、「おじさん」兼「義理の弟」なのだ。
くーっ。
見えてきたぞーん。
なあんだ、けっこう、簡単じゃないか。
ふはははは。
私の頭に稲妻が走った。
それはタランチュラが真相という獲物をとらえた瞬間だった。
歴史という霧の中に隠れた首謀者は「孝徳天皇」、その人だ。
当時、軽皇子(かるの みこ)と呼ばれていた彼は、
「天皇」という最高の位を手に入れたくなった。
しかし「大兄皇子」でもなく、いっかいの皇子にすぎなかった彼が、
天皇になれる可能性は薄い。
こうなりゃ、腕ずくである。
当時の最高権力者「蘇我入鹿」を消し去って、天皇位を奪い取る。
で、入鹿暗殺の実行犯として、おいっこの「葛城皇子」を選んだ。
やっぱ、秘密の話は身内にかぎるしね・・。
「かっちゃん。
成功のあかつきには、君を次期天皇候補にしてあげるよーん。
おじさん、ウソ言わないよー。」
なんて言ったに違いない。
いわゆる「毒まんじゅう」を食わせたわけだ。
(作者注:「毒まんじゅう」。
政界用語。
「俺を支持してくれたら、
あんた、財務大臣にしてやるよ。」
などの甘い言葉をさす。
使用例:2003年自民党総裁選で野中元幹事長が
「小泉は毒まんじゅうの食わせ方がうまい。」と語った。)
「どうです、ハトソン君。私の推理は・・・。」
私は、鼻の穴を思いっきりふくらませた。
「なるほど、ホークスの推理はわかったわ。
そうそう、まずは、優勝おめでとう。
(作者注:この原稿を書いている2003年プロ野球ペナン
トレースで「パリーグ優勝」を勝ち取ったのはダイエーホー
クスだった。)」
「いやあ、どもども。」
「ところでさあ、推理の件だけど、
本当に孝徳天皇がもっともお得だったのかしら・・?」
「そりゃ、そうだとも、ハトソン君。
それは疑問と言うより愚問ですな。
なにせ、彼は天皇という最高の位を手に入れたのだからね。」
「だからさあ、不思議なのはさあ。
殺された入鹿って、天皇じゃないでしょ。」
「ああそうだとも、ハトソン君。
殺された入鹿は大臣(おおおみ)という位で、最高権力者ではあ
りますが、天皇ではありませんですな。」
「ということは、当時の天皇は、大臣にあやつられている、いわば、
おかざりだったってことよね。
ダミーよ。ダミー。
自分で、しゃべることも動くこともできない腹話術の王様人形よ
ね。
入鹿は「いっこく」だったのよ。
(作者注:「いっこく」とは平成の腹話術の天才「いっこく」さん
を指す。ホントに人形がしゃべってるみたいだった。
「いっこく」さん自身が、かなり人形っぽい外見を持つ人
(あくまで、作者の感想)だったので、人形どうしのかけあい漫
才みたいだったところもある。)
そんな腹話術人形の天皇位が、最高のお得になるのかしら・・。」
「うーん、なるほど。そう言われれば、そうですなあ・・。」
私の鼻の穴は急にしぼんできた。
「ホークスは、大兄皇子というポジションが毒まんじゅうだと言っ
たわね。でも、もしかすると・・。」
「もしかすると、なんだい?」
「もしすかるとよ・・。
もしかすると、天皇位こそ、大毒まんじゅうだったかもしれない
わ。
ちょっと言葉がおじんくさいから、トレンディーに変えるわよ。
そうねえ、こう考えたら、どうかしら。
葛城皇子は大兄皇子という義理チョコを、
そして、軽皇子は天皇という本命チョコを手に入れたのよ。
二人ともチョコをもらって喜んだ。
でもさ、長い目で見れば、二人ともともホワイトデーに高級ブラ
ンド物でお返ししなきゃいけない運命に取り込まれただけなのよ。
義理でも本命でも、最後に笑うのは、ただ一人。
チョコを送った女なのよ。」
すごい、すごすぎる推理だ。
感服したぞ。ハトちゃん。
しかし・・・。
しかし、私は面目をうしなうのは嫌いだ。
だから、こう言い放った。
「ハトソン君、やっと気づいてくれたかね。
私はそれが言いたかったのだよ。
その通り、女が犯人なのだよ。
女だよ、女。
女を捜そうハトソン君。
犯罪の影に女ありってのは、ホントなんだなあ。」
私の鼻の穴は復活した。
「ホークス、あんた、だめねえ・・・。
はあ・・事務所、変わろっかなあ。」
ハトソン君はため息をついた。
(つづく)