誰もが知っている「歴史的偉業3点セット」・・。
だが、それを誰がやったのかはあまり知られていない。
3つの偉業を達成した「歴史3冠王」元明天皇の名前が中学の歴史
教科書に載っていないからだ・・。
やった業績はぜーんぶ載っているのに、なぜ、肝心の「誰が」が
載っていないのか。
「女性だからよ。差別されたのよ、きっと。」
かみさんは、そう言った。
でも・・・。
でも、同じ女性だけど、推古(すいこ)天皇はちゃんと載っている
もんなあ・・・。
じゃあ、なぜ・・。
こうなれば、理由は1つだ。
「元明さんを載せるとマズイことがあるんだよなあ。」
と文部科学省のお役人様が考えたってことだ。
い・いったい、何をやったんだ、元明さんっ。
「も・もしかして、人殺し・・・?」
かみさんが、言った。
「はははは。
それは、違うでしょう、はいつ夫人。」
かん高い声が後ろから聞こえてきた。
とっさに振り返った僕は、思わず声をあげた。
「ホ・ホークス・・・さん。」
「こんにちは、はいつさん。
ホークスです。町内の回覧板、お持ちしました。
お話、聞かせて頂きましたよ。」
彼が、にやけた。
彼をご存じない読み手さんのためにちょいと紹介しよう。
彼は僕と同じ町内に住む探偵「ヒャーヤッコ・ホークス」さんだ。
ネーミングの通り、ひややっことダイエーホークスが大好き。
しかも町内会・副会長だ。
これまでに数々の事件を迷宮入りさせてきた彼だが、「たの歴」で
は、見事に蘇我入鹿(そがの いるか)暗殺事件の謎を解決してみ
せてくれた。
くわしくは「タランチュラの事件簿」をご覧頂きたい。
http://village.infoweb.ne.jp/~fwkh8072/deko/his/27.htm
それをきっかけに「次期・町内会長」の座もねらえる位置に登って
きた男である。
そうなると、町内の年間予算84000円を自由にできる。
「こほん・・。
はいつ夫人・・・。
まあ、ド素人としては、立派な推理ですが・・・。
暗殺なら、中大兄皇子さんもやっています。
しかし、彼はちゃあんと教科書に載っていますよ。」
「そっか・・。
じゃあ、ホークスさんは、どんな推理をなさったの?」
かみさんの問いにホークスさんの鼻の穴が膨らんだ。
「お役人がもっとも隠したがることを考えてみて下さい・・・。
きっと、それが答えでしょうな。
おやおや、夫婦そろって、キョトンとして・・・。
むふふふ。
さあ、ハトソン君、入りたまえ。」
「Hello,ごきげんいかが、ハトソンよ。」
僕はほっとした。
助手のハトソンさんは、ホークスさんに比べれば、はるかにまとも
な女性なのだ。
ハトソンさんは、こう続けた。
「びっくりさせて、ごめんなさい。
私たち、『たの歴』の愛読者ですの。
でね、はいつさんがお困りのようだから、元明天皇についていろ
いろと調査してさし上げましたの。
今日、その結果が出ましたの。」
「そうなんですか。
それは、ありがたいです。
ぜひ、聞かせて下さい。」
僕とかみさんは身をのりだした。
とたんに、ホークスさんが会話に割り込んできた。
「『お役人さんが1番かくしたがる事』ってのは、ですな・・・。
そりゃあ、カイロでんがな。」
「カ・カイロ?」
皆がホークスさんを見つめた。
彼は、思いっきり にやついて叫んだ。
「そうそう、あの、ほかほかの・・。違うがなっ。」
・・・・一人漫才だった。
その場の雰囲気が読めない人間は町に一人や二人はいるものだ。
それが、彼であった。
そして、さらに、かぶせる人間もいるものだ。
それも彼であった。
彼は、続けた。
「お役人が、カイロをかくしたがってどうすんねん。
『お役人さんが1番かくしたがる事』って言ったら、きまっとる
がな。
水路でんがな。」
「そうそう、あの、田んぼに水を引く・・。
違うがなっ!」
その後、彼は延々と一人漫才を続け、完全に自分の世界を作り上げ
ていった。
「サイロでんがな。」
「黄色でんがな。」
「十色(といろ)でんがな。」
「蒸籠(せいろ)でんがな。」・・・。
その間に、ハトソンさんがため息つきつき、こう教えてくれた。
「もう、おわかりでしょ。
実は、わいろ・・・。わいろですの。
わいろって、政治家やお役人にとっては致命的なものですからね。」
「えっ、わいろなの?
でも、わいろだったら、あの江戸時代の田沼意次(たぬま おき
つぐ)だってやってるじゃない。
彼は教科書にのっているわよ。」
かみさんが言った。
「ええ・・。
でも、元明さんは何と言っても天皇です。
田沼さんとは違いますわ。
それに、実は元明さん、わいろを認めて、
なんと『わいろ推進の法律』まで作っちゃってるんです。」
「わいろ推進の法律ですって!?」
「たしかに、それは、ちとまずいよねえ。」
かみさんと僕は口々に言った。
「そうなの。
彼女、711年に『蓄銭叙位令(ちくせん じょいれい)』って
いう法律を作ってるんです。
それは『お金さえ出せば、出世させちゃうよ。』って法律なんです。
また、その2年後には
『いくらがんばってもお金のない人には高い地位はあげません。』
って宣言までしちゃったの。」
「げげっ!
そりゃ、ひどいや。
『銭や銭や。世の中、金しだいや。』って感じだもんね。」
僕の言葉にハトソンさんは首を振った。
「でもね・・。
考えて下さい。
和同開珎って日本初のお金ですよ。
当時は誰も見たことがないし、使い方だってわからない。
だから、お金を誰もほしがらない。
それでは、せっかく作ったお金が無駄になる。
ほしがらないお金は流通しないから・・。
お金のありがたさを教えるために、元明さんは『わいろ』という
苦肉の策をとったんだと思うわ。
お金があれば地位も名誉も手に入る。
そうすれば、お金の価値が高まるものね。
たしかに、現代の価値観で測るなら『わいろ』は悪いことです。
でも、彼女は自分の欲望のためにやったのではないわ。
唐に負けない日本という国の形を築くために断行した制度だった
と思うわ。
そのお陰でお金という富が集まり、誰も発想さえしなかった恒久
型首都『平城京』を創ることができたんですもの。」
なるほど・・・。
僕は、大きな謎が解けた気がした。
「違いまんがな。迷路でんがな・・・。」
ありゃ、ホークスさん、まだやってたのか・・。
僕はあきれた。
でも、ハトソンさんは、あきれていなかった。
「ええ・・。
そう、歴史は迷路だわ。
ホントに複雑なマラケッシュ。
実はね、はいつさん・・・。
調べていくうちにわかったのだけれど・・。
元明さん最大のミステリーは和同開珎でも平城京でもなかった
わ・・。
本当の迷路。
それは、古事記だったの・・・。」
「ええっ。古事記が本当の迷路!?」
僕は叫んだ。
(つづく)