●ヒャーヤッコ・ホークス:
冷ややっこ好きのダイエーファン。
町内会副会長。
探偵事務所を開き、数々の事件を迷宮入りさせてきた。
●ハトソン
ホークス事務所の助手。
中年のおばさん。
子どもの頃、伝書鳩に逃げられた経験があり、以来ハトソンと
名乗る。
それ以外はすべて不明。
●はいつ
僕。
●かみさん
僕のかみさん。
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第11章 「天武の謎」(2) 「ハトソンさんの推理」
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「ホ・・ホークスさん。
あなた、もしかして、天武天皇がヒミコの血を引いているって言
うんですか?」
僕の問いかけに、ホ−クスさんは鼻の穴を膨らませてこう言った。
「いかにも。たこにも。くらげにも。」
部屋中が水を打ったようにシーンとした。
うけているのか、引かれているのかが わからない人物がいる。
それが、町内で起きた数々の事件を迷宮入りさせてきた町内会副会
長・探偵ホークス、その人だ。
「おや、おや、皆さん、ぼうっとしちゃって。
切れ味が鋭すぎましたかな。くほほほほ。」
かみさんが横から口をはさんだ。
「ホークスさん。その根拠は?」
「おや?
難しすぎましたかな?
『いかにも』の『いか』を『たこ』に変えたのです。
それで『たこにも』ですな。
さらに・・。」
「いや、そうじゃなくて。
天武天皇がヒミコの血筋だっていう根拠です。」
「なあんだ。その根拠のことなの。
つまんね。
あのね。
さっきから、言ってるでしょう。
おわかりにならないかなあ・・?
登れませんか?バカの壁。」
まさに、やなヤツである。
ホークスさんの鼻はふくらみつづけた。
「いいですか。はいつ夫人。
天武もヒミコも、火をあがめ、占いにより、権力を手中におさめ
る人間なのです。
ですから、天武はヒミコの血筋と言えるのです。
登れました?アホのへい。」
かみさんが反論した。
「ホークスさん。ちょっと待ってよ。
たったそれだけの理由なの?
だったらさ。
ミスターマリックとマギー司郎も親戚ってことにならない?
細木数子と新宿の母だって親族になっちゃうわよ。」
ぴしゅー。
彼の鼻の穴はしぼんだ。
「ぐ・・・。
たしかに、そりゃそうだ。
いえね、旦那。
こりゃあ、あっしが言いだしたことじゃありやせん。
ぜーんぶ、ここにいるハトソンのたわごとなんでさ。
すみません。
ここは、ひとつ、あっしに免じて許してやっておくんなせえ。」
「んまっ。ホークスったらっ。」
助手のハトソンさんがあきれ顔をし、続けた。
「いいわ。
では、私から説明します。
まず、私たちは、はいつさんが『たの歴』のNo9で書かれた『ヒ
ミコにぴったしカンカン』を読みました。
そして『ヒミコ=火の巫女(みこ)』説を支持しています。
探偵学的に考えて、ヒミコは『はいつ説』のように古代ペルシア
に起源を持つ拝火教(はいかきょう)、つまり火を信仰の対象に
するゾロアスター教の影響下にあります。
拝火教は日本に伝わる前にインドや中国にも伝わり、ヒンズー教
や仏教さらには道教にも影響を与えていますから、そのルートで
ヒミコに伝えられたのかもしれません。
ヒンズー教には『猿』を神の使いとする教義があります。
それがタイの仏教に影響を与え、ロッブリーという町は現代でも
猿だらけの町となっています。
日本にも『日吉神社』などのように、猿を神の使いとする宗教が
残っています。
ほら、はいつさん。
あなたが『たの歴』の45号『なぜ猿?』に書いたように、天武
さんは、異常に猿にこだわっています。
天武さんも、このルートで伝わった教えを信じているとも考えら
れます。」
うーん。
ハトソンさん、すごいっ。
なんで、この人がホークスさんの助手なんだろう?
かみさんが言った。
「ハトソンさん。わかりました。
たしかに、ヒミコと天武は、同じような宗教というか呪い術、占
い術を学んでいるように思えます。
でも、だからといって、ふたりが同じ一族だとは・・。」
「ええ。
たしかに、現代に生きる私たちには、彼らが同族だと考えるのは
違和感があるかも知れません。
マリックとマギー司郎を親戚だと思っている人はいないでしょう。
けれども、天武の時代は、それが当たり前だったのです。」
「と、言うと?」
僕も質問してみた。
「すべての仕事が一族の世襲、しかも独占的だったのです。
たとえば、亀のこうらを使った占いならこの一族。
馬のクラを作るのはあの一族。
はたおりならこの一族。
軍事はあの一族。
という具合に決まっていたのです。」
あっ。
「天武の陰陽道(おんみょうどう)も、急に彼が始められるような
ものではありません。
先祖代々、その一族の専門として受け継がれてきたものだったは
ずです。
そして、日本における陰陽道のルーツは他でもない、あのヒミコ
なのです。」
ホントだっ。
「ヤマタイコクのヒミコ。
彼女は中国の歴史書に姿を現します。
彼女の死後、一族は滅びたのでしょうか?
いいえ。
イヨ(トヨ)という一族の娘があとを継ぎます。
そこまで、中国はていねいに記してくれていたのです。
しかし、我が国の歴史書には、いっさい書かれていません。
古事記にも日本書紀にも、ヒミコの『ヒ』の字も出てきません。
これは、驚くべき事です。
ヒミコ一族は完全に消されてしまっているのですから。
おそらく、現在の天皇、当時の大王(おおきみ)とは違う血筋の
女王だったからでしょう。
しかし、彼女の一族は絶滅したわけではありません。
教えも同じです。
現代でも火を扱う神事として生きています。
火祭りは、日本中で行われています。
そうそう、あの自動車会社のMAZDA(マツダ)。
あの名前だって拝火教の神の名前をも表してるんです。」
「そうなのだよ。はいつ夫妻。
今、ハトソン君が語った通りなのだよ。
バカの壁は崩れたね。くふふふふ。」
久しぶりに、やなヤツが口を開いた。
僕もかみさんも、無視してハトソンさんの言葉に耳を傾けた。
「ヒミコ一族を配下に取り込んだ大王家は、ヒミコの歴史を隠しま
す。
徹底的に隠します。
大王家以外の一族がこの日本を支配していたということを、隠し
たかったのです。
しかし、ヒミコの血筋は脈々と受け継がれていきます。
そして、天武の時代に再び花開いたのです。
天武は自らの武力によって権力を握った初めての王です。
逆に言えば、それは、そうしなければ権力を握れなかったという
ことです。
そして、宗教と政治権力の両方の頂点に立ちます。
ヒミコの流れをくむ彼は、単なる大王ではないと主張します。
我は神の子でもある。
まさしく天も認める王、つまり『天皇』であると・・。」
「じゃあ、天武さんが、初めての天皇なの?」
僕が聞いた。
「ええ。大王から天皇に変わった最初の権力者だと考えられます。
歴史に隠されたヒミコ一族。
天武は、自らの歴史を書こうとします。
そして、古事記の作成を命じたのです。
おそらく、そこにはヒミコのことも書かれていたでしょう。
しかし、天武の一族は、またしても権力闘争に敗れ、じわじわと
姿を消していきます。
30年後、天武とは血縁関係のない旧大王家の元明天皇が即位し
ます。
元明は古事記を消し去り、新しい歴史書を作るよう命じます。
できあがったのが日本書紀。
さすがに、人々の間から天武の記憶は消えておらず、天武を完全
に歴史から消すことはできませんでした。
では、どうするか。
元明は天武をみずからの叔父であるとしたのです。
それによって、旧大王家の権力が古代からずっと続いてきたとい
うストーリーができあがったのです。」
そう言うとハトソンさんは ふうとため息をついた。
「これは、あくまでも推理です。
わがホークス探偵事務所が出した答えにすぎません。
あら、まあ。
もう、こんな時間。
さあ、ホークス。
帰りましょう。
回覧板を持ってきただけなのに、長居してすみませんでした。」
ぺこりと頭をさげたハトソンさんはかっこよかった。
その横でホークスさんが胸を張ってこう言った。
「何を言う、ハトソン君。
回覧板を持ってきた者は、帰らんわん。
くふふふふ。
いてっ。いてててててて。」
ハトソンさんはホークスさんの耳をひっぱって帰っていった。
・・・・。
「ハトソンさん、おもしろかったわねえ。」
と、かみさんが言った。
「うん。」
僕はうなづいた。
「天武さんがヒミコの一族だったなんて、ロマンだわ。
でも・・。」
「でも?」
「でも、その後、どうなっちゃたのかしら・・。」
「えっ?」
「天武さんの後のヒミコ一族よ。
また、歴史上に顔を出すのかしら・・・。
今日の話の中に何かキーワードはないのかなあ・・。」
「あーっ。」
「どうしたの?」
「猿だよ。猿。日吉神社・・・。」
「えっ?
あっ。まさか・・・。」
「うん、まさかねえ・・・。
そんなはずないよねえ・・。」
あたたたい春の風が吹いた。
【天武の謎、おわり】
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