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 第13章 「称徳(しょうとく)と道鏡(どうきょう)」
      (7)「ホークス事務所の挑戦(下の下の下)」
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手紙は、こう続いていた。

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 なぜ、ただの伝言係に過ぎない和気清麻呂(わけの きよまろ)
 さんが罰せられたのでしょうか。

 ほしのメモの(7)にもあるように、歴史はこう伝えています。

 『称徳(しょうとく)女帝は道鏡(どうきょう)を天皇にした
  かった。
  しかし、和気清麻呂(わけの きよまろ)が持って帰った新
  しいお告げは、それを認めない物だった。
  怒った称徳は和気清麻呂(わけの きよまろ)を罰した。』

 ・・・。

 つまり、「やつあたり」だったというのです。

 多くの歴史家は、それを認めています。

 私たちも最初は「やつあたり」だと思っていました。

 でも、
 こんなことが、あり得るでしょうか?

 それほど、道鏡さんを天皇にしたかったのなら、なにも最初のお
 告げを確かめに行かせる必要はないはずです。
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そりゃそうだなあ。
と僕がうなづいていると、かみさんも同意した。

「そうよねえ。
 『不幸の手紙』を配達してきた郵便屋さんをどなるような
 ものだもんね。
  郵便屋さんも、たまったものじゃないわ。
 あっ。」

「どうしたの?」

「今、考えついたの。
 郵便屋さんが怒られるのは、ハガキをなくしたり届け忘れた時よ。
  なにか、ヒントにならない?」

「あっ。そうだよ。そうだよ。」
僕は、少し興奮した。

歴史の重い扉が開きかけた気がしたからだ。

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 私たちは考えました。

 和気清麻呂(わけの きよまろ)さんに、伝言係として罰せられ
 てもしかたがないような落ち度があったのではないかと・・。

 だからこそ、称徳さんは罰した。
 そして、皆もその罰に納得した。

  では、その落ち度とは何か?

 歴史に記されているわけではありません。

 しかし、ごく普通に考えると、わかってきたのです。

 順に考えていきます。

 まず。

 称徳さんが最初のお告げを確かめに行かせたのはなぜでしょうか。

 この理由は簡単に推測できます。

 お告げに裏付けがなかったからです。

 言葉を換えれば、証文(しょうもん)、つまり、宇佐神宮の証明
 書がなかったからだと考えられます。

 もし、証文付きのお告げなら、すぐに本物だと認められたはずで
 す。

 お告げ通り道鏡を天皇にするかどうかは別問題としても、真偽を
 確かめに行く必要がない。

 お告げは口頭で報告されていたのです。
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「うんうん。経験あるなあ。」
とかみさんが言った。

「経験って?」

「あのね、子どもの頃ってさ。
 宿題忘れて、言い訳するわよね。

 『昨日、熱が出て、宿題出来ませんでした。』って。

 そしたらさ、先生が言うわけ。

 『信用できません。
  お家の人に連絡帳に書いてもらいなさい。ハンコもね。』

 いやねえ。センセって。
 あなたって、そんな教師だったでしょ。」

どきっ。

 「結局、そういうことでしょ。
  これ・・・。
  口だけでは信用できないってことでしょ。」

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 ですから、称徳さんは和気清麻呂(わけの きよまろ)さんに、
 こう指示をしたはずです。

 『お告げの真偽を確かめてきなさい。
  そのために、証文をもらってきなさい。』

 いくら口頭でお告げをもらっても、それは裏付けをもたないので
 すから、意味がない。
 これは当然です。

 ところが・・。

 ところが、清麻呂(きよまろ)さんは証文を持って帰らなかった。

 そして、口頭でお告げを報告した。

 『道鏡をを天皇としてはいけない。
  天皇家の血を引く者のみが天皇とならねばならない。』と。

 称徳にしてみれば、これは赤子(あかご)の使いです。

 いくら、口で言われても、裏付けがないものを認めるわけにはい
 きません。

 内容は最初のお告げとまったく逆だし、どちらが真実かはわから
 ないわけです。

 結局、清麻呂(きよまろ)さんは「真偽を確かめる」という任務
 を遂行できなかったことになります。

 それゆえに、罰せられた。
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うんうん。
これは、納得だ。

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 では、なぜ、清麻呂(きよまろ)さんは証文を持って帰らなかっ
 たのか。

 3つの場合が考えられます。

 (1)証文をなくした。

 (2)証文を隠した。

 (3)宇佐神宮から証文をもらえなかった。

 1つずつ考えてみます。

 まず、(1)の「なくした」です。

 これは、あり得ません。
 それは、清麻呂(きよまろ)さんの罰が軽すぎるからです。
 清麻呂(きよまろ)さんは、島流しになっただけで終わっている
 んです。
 しかも、後に復権しています。
 国家の一大事に関わる最高文書をなくしたとすれば、これは、
 重罪です。
 うっかりでは、すみません。
 そんな、どうしようもない役人が復権するはずがない。
 もちろん、旅の途中で盗まれた場合も同じです。

 ですから、「なくした」はあり得ない。

 次に(2)の「隠した」です。

 これも、あり得ません。
 なぜなら、清麻呂(きよまろ)さんは、称徳さんに対して
 「隠しました。」
 とは報告できないからです。

 当然、「盗まれた」あるいは「なくした」と報告します。

 ですから(1)の理由と同じであり得ないのです。

 となると、残るは(3)。

 つまり、宇佐神宮は証文を発行しなかったということになるので
 す。
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「ええっ。
 いったいなぜなの?」
かみさんは声を上げた。

「結局、宇佐神宮は道鏡を天皇にしたかったの?
 それとも、したくなかったの?
 この推理、おかしいわよ。
 ぜったい、おかしいわ。」
 

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 この事件を通じて得をしたのは誰か。

 私たちホークス事務所は、それは藤原氏だと考えました。

 最初は・・・。

 しかし、今まで見てきたように、道鏡が天皇になるかならないか
 は、本当に運命のいたずらだったのです。

 どう転ぶかわからない。
 神のみぞ知る結末だったのです。

 だから、どう転んでも得をする者、それがこのミステリーの主役
 だったはずです。

 そんな人がいるのでしょうか。

 結論を言いましょう。

 いたのです。

 どう転んでも得をする「者」が・・・。

 そのヒントを、私たちの手紙の最初に書きました。

 ホークスがイラク人に変装したことについてです。

 『生まれ変わりがキーワードだ』と。

 『生まれ変わり』・・。

 それは、まさしく仏教の教えです。

 生命は何度も生まれ変わる。

 お釈迦様でさえ、前世にはウサギだったこともある。

 仏でさえ生まれ変わることがある。

 この教えをうまく利用して、道鏡事件の主役たりえた「者」がい
 たのです。
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ホークスさんのあのふざけた変装・・。

意味があったんだ・・・。

僕らは生つばを飲み込んだ・・・。

(「下の下の下」につづく)
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近日発信の次号にもおつき合いあれ。

まだ続くの?
という多くのご批判を胸に、たの歴は歩みます。

ではでは。



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