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【0】お知らせ
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今回の発信を読んでなお、解除せずにいられるか・・・。

史上初。
読み手の器量が試されるメルマガです。

始まり始まりい。
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【1】今回の発信
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下記の【登場人物一覧】と【資料】を今回の発信の参考にして下さ
い。

【登場人物一覧】

●ヒャーヤッコ・ホークス:
  冷ややっこ好きのダイエーファン。
  町内会副会長。
  探偵事務所を開き、数々の事件を迷宮入りさせてきた。

●ハトソン
  ホークス事務所の助手。
  中年のおばさん。
  子どもの頃、伝書鳩に逃げられた経験があり、以来ハトソンと
  名乗る。漢字で書けば「鳩損」ね。
  それ以外はすべて不明。

●理容「ほしの」のおやじ
  町内会会長。
  ホークスが好んで通う散髪屋。
  話好き。歴史好き。推理好き。

●かみさん
  僕のかみさん。

●はいつ
  僕。

*登場人物について、詳しく知りたい方は、バックナンバー27
「タランチュラの事件簿」をご覧下さい。↓
http://haitsudeko.hp.infoseek.co.jp/deko/his/27.htm

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第15章 藤原氏の平安京 「じじコン・プロジェクト(2)」
      -ホークス事務所、事件録-。
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久しぶりの理容「ほしの」は、実に怖かった。

なにせ、おやじさんが『ちょんまげ』で出てきたんだもん。

「おっ。はいつさん、おひさ。おひさ。
 伸びてるねえ。
 こりゃあ、切りがいがあるぞ。

 わたしゃ髪切り、お客はめっきり減りまくり。
 2度と来ないで、これっきりってね。

 ふひゃひゃひゃひゃ。
 さあさあ、座って座って。」

しゃべりの軽さは相変わらずだ。

困ったなあ・・。
実に危ない状況だ。
こんな状況で、ちょんまげにふれてはいけない・・。
そんなことは、45年間の人生でイヤと言うほど知っている。
でも、ふれないことが、さらに深刻な恐怖を招くこともあるしなあ・・。

うーむ。
よおし、いちかばちかだ。

「こほん・・。
 えーっと・・。
 おやじさん、どうしたの?
 その頭・・・。」

「へっへへー。
 さすが、はいつさん。
 気がついてくれましたか。
 嬉しいねえ。」

そりゃあ、誰だって気づくに決まってる。

「いえね。
 最近の不況でね。
 お客さんが、減っちまいましてね。
 でね、ある人からアドバイス頂いちゃいましてね。
 オジリナリテー(注:オリジナリティーのことか?)あふれる
 店作りを考えたんです。
 一度来たら、忘れられない店・・・。でさあ。」

「はあ・・。」

「でね。
 原点回帰で『ちょんまげ』です。」

「げんてんかいき?(たしかに怪奇だけど・・。)」

「そうそう、原点回帰です。
 何事も原点に戻らなくっちゃ。
 そもそも、日本の『床屋』ってえのは、鎌倉時代に武士が始めた
 仕事なんでさ。」

へーっ。

「名門『藤原一族』の流れをくむ、お侍なんですがね。
 『藤原うねめのすけ』って、舌かみそうな名前のお方でね。
 親父さんとふたりで開業したんです。

 本州の一番はしっこ、山口県の下関(しものせき)でね。

 えっ?
 なんで、下関かって?
 いい質問ですなあ。」

えっ?
そんなこと聞いてないんだけど・・。

「わかりやした。お教えしやしょう。
 ほれ、誰だったけ・・。
 ほれ、あのモンゴルの王様・・。
 日本を襲ってきたでしょ。鎌倉時代に・・。
 あの『揚げ物(あげもの)はさんだパン』みたいな名前の・・。」

「揚げ物?
 揚げ物ってのが、よくわかんないけど・・。
 ひょっとして、元寇(げんこう)の頃の王様って言ったら・・。
 フビライ・ハン?」

「そうそう、それそれ。
 その『エビフライ・パン』!!
 なあんちゃって。
 あれっ?
 聞こえなかった?
 『エビフライ・パン』ですよお。
 うひゃひゃひゃ。」

・・・。
店内の時空が凍り付いた。

・・・いかん。
こんな時こそ、がんばらねば・・。
がんばれ、はいつ。
前を向けっ。全力で笑うのだ。

「ぎゃはははあ。ひいひい。
 おやじさん、のってるねえ。
 勘弁してよ。
 お腹の皮がよじれちゃうよお・・。
 ひいひい。」

「おっ。
 嬉しいねえ、はいつさん。
 さすが町内一の歴史好き。憎いよっ。
 でね。
 その、エビフライ軍団から日本を守るってことで、武士達が下
 関に集まってたんでさ。
 だから、その頃の下関は、さむらいがウヨウヨ。
 その髪を整えて、ウハウハ大もうけした店が『床屋』の始まり
 です。
 えっ?
 なんで『床屋』って呼ぶのか、ですって?」

えっ?
それも聞いてないんだけど・・。

「わかりやした。お教えしやしょう。
 なにせ、店の主人が藤原一族だ。

 プライドが高かったんでしょうなあ。
 店に『床の間』が造られてたんです。

 掛け軸なんか飾ってね。
 で、まあ、『床屋』って名前ができちゃったってわけでさ。」

へえ・・。
すごいじゃん、おやじ。

それにしても、藤原氏っていろんなとこに顔を出すんだなあ・・。
床屋も藤原かあ・・・。
やっぱ、すごい一族だ。
おそるべし、藤原っ。

今日、僕がここに来たのも藤原氏がらみだ。

平安時代に藤原一族が創り上げた『じじコンプレックス』政治・・。
略して『じじコン』。
かっこいい言葉で言えば『摂関政治』の謎を、あの町内探偵ホーク
スさんが解き明かしたと言うのだ。

どんなに簡単な事件でも怪事件に変えてみせるホークス。

彼は言った。
「『じじコン』の秘密が知りたかったら、『ほしの』へ来るべし。」

*******************

「でまあ、床の間ですわ。」

おやじは、僕の頭を両手ではさみ込み、くいっと左に回した。

うぷっ。

ぷうんと、いやあな臭いがした。刺激臭だ。目がくらむ。

臭いの先に、まな板が置いてあり、その上にクリスマスツリーが
あった。

ひょとして、あのまな板が床の間・・?

「ね。床の間です。
 床の間がなくっちゃ『床屋』とは言えません。」

やっぱり・・。

「ツリーだって、そんじょそこらのツリーじゃありません。
 原点回帰です。」

え・・・?

「床屋誕生の地『下関』と言えば、何と言っても海産物。
 でね。
 飾りをよおく見ておくんなもし。」

僕はてっぺんの『星かざり』に目をやった。

「ヒトデです。生ヒトデ。
 心配いりやせん。もうひからびてます。」

げほっ。

「すごいでしょ。
 でね、でね。
 ツリーをいろどる大きめの玉は・・。
 ぷぷぷ。
 教えちゃおっかなあ・・。
 ぷぷぷ。
 よおし。
 ほしの、教えちゃう。
 フグでえす。
 ふくらませて、ペイントしちゃいました。
 うぷぷっ。
 いかが?」

いかん。
おやじがさらにのってきた。

「小さいのは・・・。
 もうおわかりでしょ。ぷぷぷ。」

わかりたくはないが、わかってしまった。
だって、とげとげがあるんだもん。

「じゃじゃじゃじゃーん。
 そう、ウニでえす。ペイント・ウニね。」

はずれてほしかった・・・。

「仕上げに、海草をからませました。
 2重らせんにね。
 そう。
 生命の原点、DNA状態にね。
 どうです?
 これこそ、床屋の『原点ツリー』でさあ。」

死力を振り絞って、僕は聞いた。

「うぷっ。
 おやじさん。見事だよ。
 ところでさあ・・。
 一つ聞いてもいいかなあ。
 いったい、いつから飾ってんの?」

「いつって、ええっと・・・。
 かれこれ、1ヶ月かなあ・・・。」

「いっ、いっ、いっかげつう!
 おっ、おやじさん。
 あんた、気づいてないかもしれないけど、これ、腐ってるよ。
 絶対、腐ってる。
 すごい臭いだよ。
 めまいがしそうだよ。」

「ははは。
 はいつさん、神経質だなあ。
 めまいだなんて・・。
 となりのお客さんなんか、顔そりしてたら、ぐっすり眠っちゃっ
 たよ。
 気持ち良さそうでしょ。
 こう言う時に、床屋としての幸せを感じるんだよねえ。
 あっしの心も原点回帰・・。
 むふふ。」

おやじのしみじみとした口調は心にしみた。

隣の席には、見知らぬ男が、これ以上ない極楽顔で寝ていた。
僕は、腐敗臭ごときに負けそうになったおのれの『神経質』を恥じ
た。

おやじは不思議そうな顔をして続けた。

「あれっ?
 おかしいなあ、まだ、石鹸が残ってる。
 しっかり拭いたつもりなのに。
 なんて泡切れの悪い石鹸だ。」

よく見ると、その男の口のまわりに泡がついていた。

いいなあ・・。
だいの大人が、気持ちよさそうに石鹸をつけたまま眠りこける。
実にほのぼのとした光景だ。

よおし。
僕も顔そりの時に寝るぞおっ。

「ぶくぶく・・。」

ん・・?
かすかに音がした。
空耳?

「ぶくぶく・・。」

いや、空耳じゃない。
この人が何か言ってる?

「ぶくぶく・・。」

・・・。
違う。

泡だ。

泡がぶくぶくわき出てるんだっ。

ぎゃっ。
僕は叫んだ。

「おやじさんっ。
 大変だ。
 それ、石鹸の泡じゃないよおっ。
 この人、寝てるんじゃない。
 泡ふいてるんだっ。
 気い、失ってるんだよおおおおおっ。
 臭いだ。
 この『くされた臭い』が原因だっ。
 急げえっ。
 急いでツリーを外へ出せえっ!」

あわてたおやじがツリーをひっくり返し、飾りが散らばった。

星のヒトデが音を立てて破裂し、辺りに細胞が飛び散る。

おおっ。すごいっ。
クリスマスだけにクラッカー。

いかん、いかん。
何をハッピーになってるんだ。

おかしいぞ、はいつ。
思考が定まらなくなってきら・・。

もう、だめらっ。

ものすごい臭いが、飢えたヒグマのように襲いかかってきた。

「うげげっ。
 にしても・・。この男、誰なんだ・・?
 そして、摂関政治はどうなったんだ?」

このわざとらしい疑問を最後に、僕の意識もとだえた・・。

(つづく)
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さあ、この男、ストーリーに関係あるのか否か?
主人公のホークスは、まだ顔さえも見せていない・・。
風雲急をつげる『たの歴』。

ではでは。

 


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