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【1】今回の発信
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下記の【登場人物一覧】と【資料】を今回の発信の参考にして下さ
い。
【登場人物一覧】
●ヒャーヤッコ・ホークス:
冷ややっこ好きのダイエーファン。
町内会副会長。
探偵事務所を開き、数々の事件を迷宮入りさせてきた。
●ハトソン
ホークス事務所の助手。
中年のおばさん。
子どもの頃、伝書鳩に逃げられた経験があり、以来ハトソンと
名乗る。漢字で書けば「鳩損」ね。
それ以外はすべて不明。
●理容「ほしの」のおやじ
町内会会長。
ホークスが好んで通う散髪屋。
話好き。歴史好き。推理好き。
●いまむら氏
「ほしの」で気を失っていた男。
『たの歴』姉妹誌『今日のいきぬき』の作者。
後にメルマガ界の足裏マッサージャーと僕から言われる。
参考↓
http://www.est.hi-ho.ne.jp/imacha
●かみさん
僕のかみさん。
●はいつ
僕。
*登場人物について、詳しく知りたい方は、バックナンバー27
「タランチュラの事件簿」をご覧下さい。↓
http://haitsudeko.hp.infoseek.co.jp/deko/his/27.htm
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第15章 藤原氏の平安京 「じじコン・プロジェクト(4)」
-ホークス事務所、事件録-。
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「さて・・。」とホークスが気どった。
「さて、みなさん。
みなさんは『藤原』と言えば、誰のことが頭に浮かびますかな?」
電光石火のごとく、いまむら氏が立ち上がった。
「もちろん、藤原とくれば紀香(のりか)です。
K−1でのナイスな進行は、絶品と言えるかと思います。」
(作者注:『藤原紀香』・・女優。
平成に格闘技大ブームを起こしたK−1の進行役。
解説の長嶋一茂がしょぼくれて見えるほどの格闘技通。)
ホークスが目を細めた。
「むふふふ。
いいですねえ。藤原紀香(のりか)・・。
実にステキな答えですぞ。いまむら氏。」
げげっ。
ホークスったら喜んでるじゃないか。
意外だが、そんな答えでよかったのか。
なら、僕も黙ってはおけない。
僕も立ち上がった。
「まった。まった。ちょっと待ってくれいっ!
藤原と言えば、嘉明(よしあき)でしょう。
『組長』と呼ばれ、『関節技の鬼』と言われた藤原嘉明にきまり
でしょう。」
(作者注:『藤原嘉明』・・プロレスラー。
アントニオ猪木の弟子。その実力を買われ猪木の用心棒的な役割
も果たす。浪花節や似顔絵、盆栽までこなす。)
「むふふふ。いいですねえ。藤原組長。
いまむらさんも、はいつさんも格闘技マニアとお見受けしました
ぞ。うれぴいなあ。」
ホークスの言葉にいまむら氏が反応した。
「じゃあ、ホークスさんにとっての『藤原』と言えば?」
「お答えしましょう。
こほん。
藤原と言えば敏男(としお)ですな。
本場タイ国で、日本人初のタイ式ボクシングチャンピオンとなっ
た藤原敏男です。あのハイキック、すごかったですぞ。
むふふふ。」
ホークスの目が輝いた。
「おおっ。ホークスさん、すごくマニアックですねえ。」
僕の目も輝いた。
「これは、とてもうれしいことと言えます。
どうでしょう。いっぱいやりながら、格闘技談議でも・・。」
いまむらさんの目も輝いていた。
「おおっ。それは、いいですなあ・・・。」
ホークスと僕が、口をそろえた。
3人の6個の目が宇宙に浮かぶ星となり、寄り添った。
なんたる平和。きらめく友情。
と・・・。
その時である。
燃えさかる超巨大な隕石が襲ってきた。
いつの世も、宇宙の平和はもろいのだ。
「やかましーーーーーーい!!
いいかげんにせんかーい!!」
ひえっ。
耳をつんざくごう音の主はハトソンだった。
彼女の目は血走っていた。
極太の血管である。
食われるかも・・。
僕の手が震えた。
「大の男が3人そろって、
『紀香だ。嘉明だ。敏男だ。』って。
いったい、これを何のメルマガだと思ってんのよお。
歴史よ。歴史。歴史なのよ。」
3人はうなだれた。
「ふつう、藤原と言えば、鎌足(かまたり)でしょ。
大化改新(たいかのかいしん)の中臣鎌足(なかとみのかまたり)
さんが、天智天皇から「藤原」という姓名をもらったのが、日本
の『藤原』の始まりですもの。」
そうか・・。
そう言えば、それまでの日本には藤原さんは一人もいなかったんだ
もんな。
僕は納得した。
「古来より、姓名を与えるのは天皇の特権でしたわ。
天皇自身は現代でも姓名がありませんものね。
あくまでも与える存在として天皇があるのです。」
なるほど・・。
「しかし、鎌足さんは『藤原』の第一号というより第0号と言う
感じです。」
えっ?
「鎌足さんが藤原の姓名をもらったのは、病の床についている時で
した。
しかも死の寸前。
意識もない状態です。
つまり、彼自身『藤原』の姓名をもらったことすら知ることがで
きない。
そんな時だったのです。
そういう意味で、彼は第0号と言えるのではないでしょうか。」
「納得です。では、第一号は?」
いまむら氏が聞いた。
ハトソンは、にやりと笑い、くるりと後ろを振り返った。
そしてホワイトボードにこう書いた。
『不比等』。
なんて読むのだろう・・・。
「『ふ・ひ・と。』と読みます。
鎌足の子、『藤原不比等(ふじわらの ふひと)』。
彼こそ、実質的な藤原氏の始祖だと言えるのです。」
「『ふひと』か・・。
ちぇっ。惜しいなあ。
『まさと』ならK−1なのになあ・・。」
と、ホークスがにやけた。
(作者注:『まさと』・・キックボクサー。
日本人初のK−1ミドル級世界王座になった男。
『魔裟斗』と書く。)
しかし、僕もいまむら氏も見て見ぬふりをした。
だって、ハトソンさんが怖いんだもん。
いつの世も、きらめく友情はもろいのだ。
瞬間っ。
ハトソンさんのミドルキックがホークスの脇腹をとらえた。
ホークスは満足そうな笑みを浮かべ、倒れていった。
「比較できる者など、この世に存在しない・・。
そういう強烈な意味を持つ『不比等(ふひと)』という名。
鎌足と比べて、あまり知られていない不比等ですが、彼なくして
1000年以上に及ぶ藤原一族の繁栄はあり得なかったのです。
実質、彼は鎌足以上の存在だったとも思えるのです。」
鎌足以上だって・・・?
ごくり。
僕はつばを飲み込んだ。
「不比等は考えます。
日本において、権力を維持するには天皇家とつながることが必要
だと。
そして、その天皇の権力を守ることが藤原の栄光になると。
しかし・・。
もし、天皇の力が強すぎれば、藤原の頭を押さえつけられる。
強い天皇。しかし、強すぎない天皇。
これこそが藤原の栄光を約束するシステムだ。
そこで、創りだしたもの。
それが、実質的な日本最初の憲法、『律令(りつりょう)』です。」
「ハトソンさん。ちょっと待って下さい。
律令と言えば、天皇の権力を絶対的なものとする憲法ですよね。」
と、僕が聞いた。
「ええ。そうです。
たしかに表面的には天皇に権力が集中しています。
でも、ある重要な面で、天皇の力が削られているのです。」
重要な面・・?
いったいなんなんだろう・・。
「それは、今の言葉で言えば『政教分離』、つまり宗教と政治の分
割です。
古代の天皇は神とつながること、あるいは同体となることにより
政治を行ってきました。
つまり、宗教と政治は境目のないものだったのです。
律令制度は、その境をはっきりさせました。
役所を大きく2つに分けたのです。
政治を行う『太政官(だじょうかん)』。
そして宗教に関する『神祇官(じんぎかん)』の2つです。」
うんうん。太政官も神祇官もどこかで聞いたことがある名前だ。
「ようするに、宗教と政治を分け、そのどちらもお役人でできる。
そういうふうにしたのです。
もちろん、頂点には天皇がいます。
その意味では最高権力者は天皇です。
しかし、この律令さえあれば、お役人で何でもやれるのです。
誰が天皇でも国の運営に支障がないということにもなるのですね。
そういう意味では、天皇権力の弱体化とも言えるのです。
強い。しかし、強すぎない天皇。
まさに藤原氏のねらいどおりですわ。」
ひえー。
すげえなあ・・不比等。
「不比等は自分の死後のことも考えます。
4人の自分の子を独立させ、競わせるのです。
それまでの習慣では、どの氏族も『本家』と『分家』の関係を持っ
ていました。
しかし、不比等は4人の子、それぞれの家をほぼ対等の関係とし、
競争原理の中で、お互いを磨き合わせたのです。
歴史的に、この4家はある時は協力し、ある時は闘い、常に権力
を手に入れているのです。
これは、当時としては画期的なことでした。」
「なるほど。3匹の子豚ですな。
ブヒブヒ。
むふふふふ。藤原ブヒトなあんちゃって。」
と・・。
ふいに起き上がったホークスがすっとんきょうな声で言った。
友情の消え失せた僕らが、見て見ぬふりをしたのは言うまでもない。
そして、ハトソンさまのローキック炸裂も言うまでもなかろう。
また、ホークスは笑いながら散っていった。
しかし。
その後、ハトソンさんが語った藤原一族の謎は、そのローキックを
上回るほどの衝撃だったのだ。
ひえー。
(つづく)