「年寄りの悪あがき」、「老害」。
かみさんをして、こう言わしめた『院政』。
『院政』には、どうも、そういうイメージがつきまとっている。
しかし・・である。
これは、まったくの言いがかりなのだ。
むしろ、『院政』は若返りとして期待された政治システムなのだ。
「若返り?
しょんな、バナナ。
なんかさあ。
年金たっぷりのおじいちゃんが始めたって気がするけどなあ。
(かみさん談)」
考えてほしい。
『院政』が始まる以前の日本を牛耳っていた『摂関(せっかん)政治』。
あの『摂関政治』は「じじコン」システムだった。
原則として、孫が天皇になるのをじっくりと待たなきゃいけない。
これって、すごく気の長い話だよねえ。
摂政として権力を握るまでに、ものすごく時間がかかるんだ。
「そうよねえ。まご天待ちだもんねえ。
もも・くり3年、かき8年。まご天、何年?(かみさん談)」
うーん。
たとえばさ。
「ミスター摂政」藤原道長(みちなが)は50歳で、ようやく摂政の位
に就いたんだ。
50歳・・。
当時としては、かなりの高齢だよね。
「まご天待って50年か・・。
長いわねえ。
じゃあ院政はどうなの?(かみさん談)」
『院政』は、「じじコン」に対して、言わば「ファザコン」システ
ムとして登場したんだ。
天皇の位を子どもに譲った瞬間に開始できるシステムだもんね。
「こ天待ちね。(かみさん談)」
うん。
これなら、まご天に比べて、はるかに早いよね。
ちなみに。
「元祖イン様」白河上皇は、33歳の若さで院政をスタートさせたんだ。
「げげっ
33歳っ!!
堀江社長(*注1)と同世代じゃんか。
白河上皇って、そんなに若かったの!
絶対、じいさまだと思ってた。(かみさん談)」
意外でしょ。
でも、そうなのだ。
白河上皇は、平安の世にさっそうとデビューした若き政治家だったのだ。
「へえ。びっくりだなあ。
ホリエモンが平安京に出現したってことね。
わくわくするなあ。
やっぱ、ノーネクタイね。
おなかもぷくっと出ててさ。
記者会見してね。
『想定の範囲内ですね。』なあんて言ってさ。(かみさん談)」
そう、そう。
その「想定の範囲」ってのが、摂関から院政への転換のポイントだっ
たと僕は思ってるんだ。
「どういうこと?(かみさん談)」
あのさ。
摂関政治では想定できなかったことが、起きたんだよ。
だからこそ、摂政・関白の求心力が衰え、院政への移行がスムーズ
に行われたはずなんだ。
では・・。
その想定できなかったこととは何か・・。
それは、天皇家に嫁いだ藤原一族の娘に、男の子が生まれなかった
なんてことじゃない。
そんなことは、簡単に想定できるもんね。
そのために、藤原氏は血縁に頼らない、制度としての摂政関白を創
り上げてきたんだもん。
「じゃあ、何が想定の範囲外だったって言うの?(かみさん談)」
そもそも摂関政治は、日本にとって歴史上この上ないほどの平和が
前提となって生まれたものなんだ。
平安時代初期の日本は、強力な軍事力を持つ大国に囲まれていた。
朝鮮の「新羅(しらぎ)」、中国東北部の「渤海(ぼっかい)」、
そして、超大国「唐(とう)」。
日本への侵略が、いつ起きてもおかしくないという緊張の中にさら
されていたんだ。
ところが・・。
その3大国が時を合わせたかのように、そろって勢力を弱めバタバ
タと倒れていったんだ。
卑弥呼(ひみこ)の時代から、もっとも重要な政治課題は外交・軍
事だよね。
その外交・軍事が必要なくなってしまったんだ。
もう日本に攻めてくるような外国勢力はなくなった。
極端に言えば、政治課題が消えうせちゃったってことだ。
となると、権力者たちは何をするか・・。
「わかるわ。
戦争の心配がなくなったんでしょ。
受験戦争が終わった受験生よね。
やることはひとつ。
のほほん、よね。(かみさん談)」
そう、のほほんとするのが政治になってしまうんだ。
のほほんと歌を作り、のほほんと恋をし、のほほんと美食に浸る。
政治は儀式になり、慣例にしたがって、同じことを繰り返すことに
なる。
「去年はどうやったのじゃ?」
「おととしと同じようにやったでおじゃる。」
「じゃあ、おととしはどうやったのでおじゃる?」
「3年前と同じでおじゃる。」
「ほほほほほ。おひまでおじゃるな。」
とまあ、
こんな感じだ。
貴族たちは権力維持のため、子孫に「慣例やしきたり」を伝えよう
とする。
そのために、日記を残すようになる。
平安時代に日記文学が盛んになったのはこういうわけだ。
では、慣例やしきたりに強いのは誰か・・。
「あっ。おじいちゃんね。」
うん。
貴族たちにとって、おじいちゃんの経験はとても重要なものだった。
だからこそ、「じじコン」摂関政治が成り立ってきたんだ。
「ってことは・・。
想定の範囲外ってのは、外国からの侵略ね。(かみさん談)」
うん。
中国北部の「金(きん)」という国が考えられないほどの速さで力
をつけてくるんだ。
そして、日本に攻め込んできた・・・。
「ひょえー。
のほほん日本。攻め込む外国。金。
これって、ホリエモンの言ってることとそっくりじゃん。
『ライブドアがやらなきゃ、のほほんとした日本に外資が攻めて
くるぞ。
すごい金を持ってやってくるぞ。』って・・。」
うん。
こうなると、もう「じじ」では対処できなくなっちゃった。
前例のないことは、どうしていいかわからない。
徐々に摂関に対する信頼が薄れてくる。
じじは、じじで「末法(まっぽう)の世の中じゃ。」なんて言い出
す始末。
そこで阿弥陀(あみだ)様にすがろうとする。
「この世をば、我が世とぞ思う・・。」なんて歌いながら、
あの世での心配を始めたんだ。
『ミスター摂政』藤原道長は関白にならず、その地位を息子に譲り、
寺造りにはげむ。
息子の藤原頼通(よりみち)は、別荘を寺にリフォームし、仏様を
拝む。
平等院鳳凰堂(びょうどういんほうおうどう)だ。
じじの関心は、現世での権力闘争から死後の世界へと移ってきたの
かもしれない。
摂関最強の権力者といわれる道長・頼通(よりみち)の親子コンビ
は、実は、摂関システムの終わりを予感させるコンビだったのだ。
頼通(よりみち)が関白として最後の権勢をふるっていた頃、皇室
に一人男の子が産声をあげる。
そう、それが、
後の、若きヒーロー『元祖・イン様』白河上皇だ。
「くーっ。かっくいいい。
なんか院政がかっこよく思えてきたわ。(かみさん談)」
ほほほほ。
てなわけで、今回はここまでおじゃる。
「えっ?もう終わり?
まあ、いつものことだし、想定の範囲内ね。(かみさん談)」
・・・。
ではでは、また次回。
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(*注1) 堀江社長(ニックネームは『ホリエモン』)
・・平成の世を騒がせた若手企業家。
ネット関連企業「ライブドア」の社長さん。
野球チームを買うとか、放送会社を買うとか、
どうも買い物好きらしい。
父は「息子には無駄遣いだけはするなと叩き込んである。」
とインタビューで語っていたが・・。
苦境と見られる場面でも「想定の範囲内ですね。」と言っ
てのける。
僕のかみさんは「目が離せない男ね。」と語る。