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「よくばりな犬と神さま
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いちょうの葉がゆっくり舞い落ちる黄色い季節のことでした。

肉をくわえた犬が橋の上にやってきました。
犬はじっと川をのぞきこみ、
「ワンワン!」とほえました。

ぽとり、くわえていた肉が川へ落ちてしまいました。
犬は、しばらく川を見つめていましたが、やがて去って行きました。

その様子を見ていた町の人々は笑いました。

「わははは。なんて、よくばりな犬なんだ。 
  川にうつった自分の姿を見て、肉を奪いとろうとしたにに違いない。」

「ああ、あの犬はずっと前から同じ失敗をく り返しているんだ。」

大人は子どもに言いました。

「何回も何回も同じ失敗をするのは、よくばりで、まぬけだからさ。
 あの犬のようになってはいけないよ。
 よくばりのまぬけは必ず 損をするものなのよ。」

子どもたちは
「けっして、あの犬のようにはならないぞ。」
と心に決めました。

犬が去ってしまった後、橋の下で、ごそごそと音がしました。
それは、おじいさんのカメでした。

おじいさんカメはエサをとることもできないほど年老いていました。

おじいさんは上を向いて言いました。

「橋の上の神さま。今日もお肉をありがとうございます。
 神さまのおかげで、今年も冬が迎えられそうです。」

やがて、雪の舞う白い季節になりました。

たくさんの粉雪で背中を真っ白にした犬が今日も橋の上にやってきました。

「ワンワン。」

肉がぽとりと落ちました。

おわり。



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