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「宇宙のうわさ」の【想い編】です。
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僕は、黒板いっぱいに銀河の絵を描きました。
そして、真ん中からはずれたところに太陽を描きました。
宇宙の広さを知ってもらうための授業です。
太陽のまわりに惑星を描きました。
もちろん地球も。
そして、月。
「すげえなあ、宇宙って広いんやなあ。」
「ホントや。広いなあ。」
子ども達が口々に言います。
修君がふと言いました。
「センセ、金星ってけっこうご近所なんやね。」
広い、広い黒板の銀河に、心細げに寄りそう太陽系がありました。
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僕が子どもの頃・・。
いろんな本に「宇宙旅行の話」が載っていました。
もちろんSFの世界です。
憧れました。
星々の輝く広い広い宇宙を進むロケット。
味わったことのない無重力の世界に思いをはせました。
宇宙への思いは、その星々と同じく輝いていたのです。
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30年たった今。
宇宙旅行は夢ではなくなりました。
宇宙科学の技術は期待通りの進化をとげたように見えます。
月に足跡を残した人類は、火星にも一歩を記そうとしています。
他の惑星に住むという計画だって、もう絵空事ではなさそうです。
資源の問題も、ゴミの問題も、そして温暖化や人口爆発の問題も
すべて解決に向かうかもしれません。
月から資源を得る。
宇宙空間で核廃棄物を処理する。
火星を温暖化し住める惑星に変える。
そんなことを可能にするため、僕らの科学は検討を始めています。
えっ・・・。
それが、子どもの頃に描いていた夢の宇宙?
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僕らは、もう知っています。
「科学は暴走する」という、子どもの頃には考えもしなかった事実
を。
その暴走は宿命とも言える必然かもしれず、結果として、何ひとつ
の解決をもなしえないということを。
ノーベルは自身が作ったダイナマイトの威力を見て、こう語ったそ
うです。
「このすさまじい威力を知れば、恐ろしくて2度と戦争など出来な
くなるだろう。地球から戦争をなくせるかもしれない。」
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今、目の前に起きている現象は、科学の進歩か暴走か。
これを考えること。
それが哲学であり、科学のハンドルになりうるたった一つの方法だ
ということ。
僕ら大人は、そのことを子ども達に伝える義務があると思うのです。
現代の科学はその加速をゆるめる気配すらありません。
こんな時こそ。
そこかしこに残された自然に対する想いの影を追おう。
そう思います。
その残像の中こそ、人としての本質があるのかもしれない。
そう・・。
たとえば・・、あの時の修君のつぶやき。
「センセ、金星ってけっこうご近所なんやね。」
この幼い言葉の中にこそ、その哲学がある。
飾りをぬぐい去ったアニミズムの持つ純粋さがあり、自然に生まれ
た謙虚さがある。
それこそが、科学を人間とともに歩ませることができるものだ。
僕は、そう思ったのです。
そして、それは僕が持ち得なかった、いや、ひょっとすると、置き
去りにしてきた想いに他ならない。
そういう、恥ずかしさや後ろめたさも、僕に今回のお話を創らせて
くれたのだと思います。
ありがとうございました。
次回も、おつき合い頂けたら 幸せです。
ではでは。