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ばあちゃんのホイッスル」 -2000/03/03-
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「やいと」って知ってますか?
お灸のことなんです。
僕のばあちゃんは、自分で、も草をねり、つぼを見つけ、線香で火をつけてお灸をしていました。

僕たち孫はその様子を目を皿のようにして見るんです。
円すい型のお灸の頂点からじわじわと火が広がってくるんですね。
見るからに熱そうなんです。
それも、一カ所ではありません。
片腕だけでも5,6カ所、お灸をすえるんです。

夏なんかだと、ばあちゃんの額に汗がにじんできます。
夏の太陽なんかより、やいとはずっとずっと熱そうなのです。
見ている孫達も汗びっしょりになってるんです。
お灸をすえたつぼは、皮膚が焦げたようになっていました。

「ばあちゃん、なんで、やいとなんか すえるん?」
「熱くないんか?やけど、しちょるやんか。」
僕らは、ばあちゃんに聞きました。

「そりゃあ、熱いさ。けど肩こりなんかに、よう効くんや。
 肩こりよりもっと効くもんがあるけど、何かわかるか?」
「わからん。」
「お前達のお仕置きや、もし言うこときかんでみい、やいと、すえるぞ!!」
「うひゃあ。」
孫達は逃げ出しました。

口やかましいばあちゃんで、孫達は説教されては「やいと、すえるぞ。」と叱られてました。
年数が経ち、僕たちはわかってきました。
ばあちゃんが本気で孫にやいとをすえる気がないことを。
だって、誰もすえられたことがないんですから。
けれど、僕たちはそう言われれば「ごめんごめん。」と言って逃げました。

今、思えばあのセリフは試合終了のホイッスルだったのかもしれません。
きっと叱りながらも、孫を許す機会を探っていたんだと思うんです。
「やいと、すえるぞ。」は「もう、いいよ。これから気をつけろよ。」と同義語だったんでしょう。
それを孫も肌で感じていた。
だから、「ごめんごめん」で逃げていけたんでしょう。

僕は子どもを叱る時、雪だるま式なんです。
「わかってるのか!」
「なんだ、その態度は!」
「反省の様子が見えんぞ。」
「手をぶらぶらさせながら聞いちゃだめだ。」
「ちゃんと、お父ちゃんの目を見て聞くんだ。」
最初に叱ってたことから、どんどん広がっていくんです。
ひどい時には何日も前のことまで引っぱり出して叱ってしまいます。

ばあちゃんは「子育て教室」に行ったわけでもありません。
そんなマニュアル本すらもない時代です。
しかし、僕らは、ばあちゃんのいうことを正しいと思っていた。
言いつけを守りはしないことは多かったけれど、反抗はしなかった。
それは、しかり方一つにしても情があったからだと思います。
そして、情から生まれた無意識のテクニック、ばあちゃんのホイッスルは孫の胸に響いたのです。
30年すぎた今でも、その響きは変わりません。

なぜ、僕にはできないんだろう、、。
でも、いつかできる気がします。



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