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【1】「閉鎖された門」-2001/05/08-
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「気持ちはわからんでもないけどねえ。」
おじさんが、ため息まじりに言いました。

そのおじさんは、「ふれあい動物広場」の飼育係さんです。
60歳前後かなあ・・そのくらいの年齢に見えました。

「はっきり言ってショックだったねえ。
 一人、二人じゃないんやから・・。
 なんぼ、孫がかわいいからっていってもねえ。」

その動物広場は、連休明けに閉鎖されてしまっていたのです。

「岩場に隠れているウサギをつつくんやから・・。
 そこに、植えてある木の枝を折って・・。
 それも僕より、年上のじいちゃんがよ・・。
 自分の孫に抱かせたいんやねえ。
  ウサギを追い出したいんやね。
 だからといって、年寄りがよ・・。
 子どもがするんなら、まだ、わかるよ。
 でも、それを叱るんが、年寄りの役目やないの?
 ウサギをいじめちゃいけんぞって言うのが年寄りの役目やないの?

 僕らから言わせれば、動物虐待やね。
 若い親はもっとひどい・・。
 子どもや孫ももっとひどい・・。
 これが、現実なんやねえ・・。
 
 連休中に毎日、ウサギが死んでいくんよ。
 2羽ずつね。
 とめることができん僕らも情けないよ・・。
 でも、このままだったら、ウサギがかわいそうで・・。
 そういうわけで、閉鎖させてもらったんよね。
 ごめんね、せっかく、来てくれたのに・・。
 柵の外からだけど、じっくり見ていってね。」

おじさんは、申し訳なさそうに僕たち家族にそう言ってくれました。

「敬老の日」をずらし、連休の1日にしようという案がでています。
「記念日」でも「感謝の日」でもない、日本では唯一の「敬う日」。

戦後の混乱を知る「お年寄り」という世代。
実は、僕らの子育てや教育という大きな流れの針路を示してくれるのは
「お年寄り」なのかもしれないです。

ひょっとすると「おじいちゃん・おばあちゃん」の自信が今ほど必要な
時代はないかもしれないです。

日常から薄くなっていくような気がする「敬う」という感性・・。

おじいちゃん、おばあちゃん、僕らに力を貸してください。

閉鎖された動物広場の門。
それを、開放するには、おじいちゃん・おばあちゃんの言葉が必要なの
かもしれないです。

そして、僕も、そんな年の取り方をしたいです。

(了)


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