「99.97%の安全消失(1)」

 くじ引きの箱を思い浮かべて下さい。
その箱の中にくじを3600枚入れます。
はずれ券は1枚だけにします。残りは全て当たり券です。
ほとんど、当たりばっかりですよね。
そこで、このくじを「安心くじ」と名付けます。

 その「安心くじ」を引いてみます。
おそらく当たりますよね。まず、はずれないでしょう。
だって、当たる確率は約99.97%もあるんですから。
はずれる可能性は僅かに0.03%程度なのです。
そのくじを箱に戻して、もう1回引いてみても、おそらく当たるはずです。
安心して2回くらいなら引けますよね。

 しかし、しかしですよ、もし、このくじを3600回引きなさいと言われればどうですか?
1回くらいは、はずれを引いてしまいそうじゃないですか。
確率の計算上からも、1回は、はずれてしまいますよね。
99.97%の「安心くじ」でさえも3600回も引けば「安心できないくじ」になってしまいます。

 実はこの3600回という回数は僕たち保護者・教員・子どもにとって身近な数字なのです。
何だと思いますか?
それは義務教育の間に子ども達が学校と自宅とを移動する回数、つまり登下校回数なのです。
週休完全2日で計算していますので、現時点(2000年)ではもっと多いです。
そして、その登下校の間こそ、子ども達にとって最も危険な時なのです。
誘拐、変質者、強迫、暴漢、様々な危険が潜んでいるのですから。

 けれど、「そんな事件に遭遇することはない」と思っていませんか?
我が子が、また自分の教え子が、そんな目にあうことはないだろう、と思っていませんか?
事実、そういう確率は非常に低いでしょう。
しかし、99.97%の安心を消滅させる3600回という回数が現実にあるのです。
幼稚園から高校までとすると5200回にもなるんですよ。
自宅から学校までの距離が2kmだとすると登下校距離はのべ1万kmです。
登下校だけで地球を1/4周しちゃうんです。
これって恐ろしくないですか?
地球を1/4周も回る間、安全だと思えますか?

 僕は教員時代に、あるクラスの女の子が車で連れ去られるという事件を経験しました。
無事に保護されたのですが、非常に危険な切羽詰まった状況でした。
また、変質者に遭遇するという事件も5回経験しました。
 僕の娘が通う学校でも、同様な変質者事件が1年間で3ケースも報告されています。
全国的にも誘拐、暴行などの事件が後を絶ちません。

 登下校中はまったく安全ではないと言っても過言ではないのです。
それでは、学校はどんな対策をとっているでしょうか。
多くの学校が、残念なことに、ほとんど無力なのです。
せいぜい「知らない人に声をかけられても、逃げなさい。」的な指導なのです。
これは学校や保護者の認識不足の結果だと思います。
危険とは思っても自分には関係のない危険だと思っているのかも知れません。
特に下校時は危ないのです。
登校時は例えば小学校で言えば1年から6年までの全児童がだいたい同じ時刻に通学します。
だから登校班などのシステムも組めるかも知れません。
また、通勤の大人達もかなりいますから抑止力になるでしょう。
しかし、下校時はバラバラです。人通りも少なくなります。
だからとても危ないです。
僕が体験した事件も全て下校時に起きたものなのです。
そして、ひとたび、そのような事件にあえば場合によっては命を落とすこともあるのです。
また精神的なショックは子どもにとっては非常に過酷な物となります。

99.97%の安心でさえ消え去るということ、この現実をもっと見つめるべきだと思うんです。 
子ども達は地球を1/4周も回る距離を登下校に費やすかも知れないことを受け止めるべきです。
それほどに危険だという認識を持つことが第一歩なのです。

「知らない人から声をかけられたら逃げる」なんて指導は焼け石に水です。

次回は保護者として、そして苦しい体験をした教員として、できそうな対策を提案してみます。

次回に続きます。)



ご意見ご批判は今すぐメール
あなたのご意見などはHPやメールマガジンにて紹介する場合があります。
その際はすべて匿名とします。

ホームへ      語句別索引へ