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■「ダンディライオン(1)」-2000/09/25-
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夢ちゃんのおかあさんは、泣いていました。

ちょうどその時、夢ちゃんは書き方教室に行っていて家にいなかったのです。
だから、おかあさんは僕の前で涙を見せたのだと思います。

夢ちゃんは小学校1年生、僕は担任の教員でした。
その日は僕にとっては何度も経験した家庭訪問の日でした。
おかあさんにとっては、我が子を小学校に通わせて初めての家庭訪問だったわけです。

2人で「はじめまして、よろしくお願いします」の挨拶を済ませた後、すぐのことで
した。

「やっと、夢子を小学校に上げることができました。」
と言って、おかあさんは目を潤ませたのです。

家庭訪問で、保護者の涙に接するのは僕にとって初めてのことでした。

おかあさんは、夢ちゃんが元気に素直に育ってくれたと感慨深げに話してくれました。
そして、こう続けたのです。

「先生にお話ししておきたいことがあるんです。
 実は、私は夢子に、申し訳ないような仕事をしています。」

僕はじっと聞きました。
おかあさんは、涙をこらえきれずに、しかし、一生懸命に話してくれました。

「主人と別れて、ここ何年間か、夢子とは一緒に寝てやることもなかなかできません
 でした。
 夢子は妹の愛子と2人で寂しい夜を過ごすことも多かったんです。
 親として最低のことだと、思っています、、わかっています。
 でも、親子3人生きていくのに、私のような女には他に方法がなかったんです。
 夢子も愛子も、素直に育ってくれました。
 でも、いつも不安です。
 こんな親では、いつか子ども達が離れて行くんじゃないか、そう思うと、、。
 本当に、親として先生に対しても恥ずかしい気持ちでいっぱいです。」

おかあさんは声をつまらせました。
僕は、涙に対して何と答えていいのか、困ってしまいました。
しかし、職業について日頃から考えていたことを言いました。

「おかあさん、誰もがみんな生活していくために働いていますよ。
 僕もそうです。
 同じ生きるっていう目的のために仕事をしているんです。
 仕事は、手段にすぎないですよ。
 できれば、自分にあった手段を見つけたいと誰もが思いますよ。
 でも、現実は、それを許してくれない場合が多いです。
 だから、誰も、その手段のことで恥じたりすることはないと思います。
 世の中にある仕事は、給料や階級などいろんな違いがあります。
 不平等を感じることも多々あります。
 でも、不平等ではあっても対等ですよ。
 そして、子どもに、どんな仕事も対等だということを教えるのも僕ら大人の
 役目だと思います。」

その日の夜、僕は自問自答しました。
「お前は本当にすべての職業が対等だと思ってるのか?」
「お前はあんなことを言ったけど、口先だけのことじゃないのか?」

残念ながら、僕には自信がありませんでした。

次の日、僕は授業で「たんぽぽ」についての学習をしました。
まさか「たんぽぽ」が夢ちゃんのおかあさんと結びついているとは思いもせずに。

その2につづきます)
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■関連コラム項目「家庭教育」
 http://www.yukichi.ne.jp/~deko/sakuin.htm#kateikyouiku



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