川の源流近くで見つけたカワゲラの幼虫そしてナナフシという昆虫。
それは僕にとっての「はじめまして」だったのです。
不惑の年を迎えた僕にさえも、まだまだいろんな新発見ができそうです。
子どもと「はじめまして」を共有できるってことはいいもんだなあって思いました。
そんな時、僕はある女性のことを思いだしていました。
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その女性と会ったのは2週間前、
場所は、やはり奥深い山の中でした。
ある「自然探索会」で出会ったのです。
「涼しいですねえ。まるで別世界ですね。」
50歳前後と思われるその方は僕に話しかけてきました。
「本当に、、。こりゃあ下界に戻りたくなくなりますよ。」
「そうそう、本当にそうですね。
でも、頼みもしないのに、夕方には、きちんと現実が待ってますもの、、。」
彼女は苦笑いしました。
「こういう会にはよく参加してるんですか?」
僕が聞くと首を横に振りながら彼女は言いました。
「いいえ、仕事をしているもので、なかなかこんな機会には恵まれません。」
「そうですか、忙しいんですね。」
「はい、だから機会を見つけて、時々、確認しにくるんです。」
「確認しに、、?」
僕にとっては不思議な言葉でした。
「誰でも同じなんでしょうけども、、、。
仕事をしていると、いやなこと、悲しいこと、つらいこと、
たくさんあるじゃないですか。
そんな時、どうしてますか?」
「うーん、その時その時に応じて違いますねえ。」
と僕はお得意のあいまいな返事をしました。
「私は目を閉じるんです。
そして、子どもの頃いつも見ていた「木洩れ日」を思い出すんです。
実は、私は、ここと同じくらい自然に恵まれた田舎に生まれ育ちました。
夏は毎日のように、祖父母に連れられて川遊びですよ。
大きな石の上に寝ころんで空を見上げると、
木々の葉の間から柔らかい光が見えるんです。
祖父母は「木洩れ日」という言葉を教えてくれましてね。
その木洩れ日が目を閉じると浮かんでくるんです。
町に住み始めた学生時代もそうでした。
いやなことがあれば、目を閉じて、木洩れ日を思い出すんです。
それで、たくさんのことを解消してきたんです。
その風景を私は確認しに来たのです。」
ああ、いいことを聞いたなあ、と僕は思いました。
振り返って僕はどうだろう、、。
そうも考えました。
僕には、そんな、心の支えとなるような風景があるんだろうか?
残念ながら、ないような気がしました。
彼女は続けて話してくれました。
「そんな木洩れ日、、今の子ども達はほとんど体験できないんです。
暑い、じりじりした太陽ばかり見ている気がしますね。
私は、できれば、そんな木洩れ日体験を子ども達にさせてあげたいんです。」
「えっ、『子ども達に』って、もしかして、先生ですか?」
「はい、校長をしています。
今日は日曜日なのでこういう会に参加できました。
今、教育の荒廃が叫ばれていますね。
私は若い教師達にもこういう体験をさせたいと思っています。」
この女性は、目を閉じると浮かんでくる「木洩れ日」という風景を持っていました。
幼い頃から大事にしてきた風景を持っているんです。
いわば、「お久しぶり」の風景です。
そして、僕が出会った「不惑のはじめまして」の風景。
「はじめまして」と「お久しぶり」の風景は人生の処方箋として、僕らが子ども達に
伝えていけるものかもしれません。
「おとうちゃん、そうめんなくなるで。いっぱい食べりい。
こんな おいしいそうめん うちじゃあ食べれんよ。」
ぼやっとしていた僕に娘が言いました。
こうして、僕のこの夏の源流体験はおわったのです。
(了)
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