その(1)の概要
http://www.yukichi.ne.jp/~deko/colums/pinstripe1.htm
「ピンストライプのユニフォームが着たいんです。」
「歴史と伝統のあるユニフォームに袖を通したい。」
幼い頃からのあこがれ、大リーグの「ヤンキース」への入団を希望する伊良部選手。
僕には「ピンストライプのユニフォーム」という言葉が印象的でした。。
それは教員経験者である僕に大きく欠けていたことを教えてくれたからです。
いえ、よく考えれば、保護者としての今の僕にも欠けているものかもしれません。
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少し話はさかのぼります。
それは僕が新規採用教員として故郷の隣町の小学校に勤務していた時のことでした。
その学校に林先生がいたのです。
林先生は、僕より8歳年上、思ったことは即実行、言葉は少し乱暴だけれど、
曲がったことは大嫌い、、そんな先生でした。
ある日、林先生が僕に言ったのです。
「おかしいと思わんか?」
「何がですか?」
「帽子や、帽子、、。」
「はあ?帽子がどうかしたんですか?」
「うちの学校、なんで、制帽があるんかのう。」
当時、僕のつとめる小学校の児童は校章の入った制帽を着用していたのです。
林先生は続けました。
「別に、頭を守るためやったら、どんな帽子でもいいわけや。
制帽でなきゃいかん理由はないやろ。
こりゃあ、おかしいぞ、、。
うがってとれば、癒着かもしれんぞ。
帽子疑惑や。
職員会議で採り上げようや。
あんたも協力してくれや。」
新卒の僕は、毎日、授業や生活指導など教室内のことでせいいっぱい。
とても、とても、帽子のことまで頭が回る状態ではなかったのです。
しかし、林先生の言うことは正論だと思いました。
そんないきさつで臨んだ1学期最後の職員会議。
前半は、いつものように淡々と進んでいきました。
司会者が「他の先生方から何か議題はないですか?」と言った時、林先生が
制帽問題を話し始めたのです。
議論は沸騰しました。
僕も「制帽不要論」を細々とですが訴えました。
話題は中学校の制服にまで及びました。
最後に、校長が言いました。
「私も教頭も今年着任したばかりで、今までの経緯を把握していません。
もう少し時間をもらい、過去のことや現在の保護者の考えを調べます。
地域や中学との連携も含めて考えてみます。
その上で結論をだしましょう。」
僕は、その時から、現在に至るまで「義務教育における制服制帽は問題あり」だ
と考えています。
そして、それは制度論として廃止の方向に持って行くべきだとも思っています。
制服の利点も確かにあるでしょうし、それを否定するものではありません。
しかし、「制服を着用しなければ行えない教育はもろい。」と考えているのです。
その上で僕は伊良部投手の言葉を聞いて、僕に欠けていた部分を発見できたのです。
僕は、教え子達に「君たちの学校は、こんな伝統や歴史があるんだよ。」というこ
とを伝えてなかった。
いえ、僕自身、勤務校において、そんな感覚を持っていなかったのです。
はっきり言えば、何も知らずに、考えずに教壇に立っていたのです。
「自分たちの学校に誇りを持とう」、、心の底からのそんな言葉は1度も言えなかっ
たような気がします。
同じように、僕は保護者として、たとえば住んでいる地域の歴史や伝統を子どもに伝
えているでしょうか、、。
家庭に対する「誇り」や「愛着」を育てているでしょうか、、。
残念ながら、僕は、いまだにできていないのです。
制度論としての制服制帽論議は絶対に必要でしょう。
しかし、一方で同じくらいに必要なことがありそうです。
「ピンストライプのユニフォームが着たいんです。」
「歴史と伝統のあるユニフォームに袖を通したい。」
そう語った伊良部選手の心にある憧れや思い入れも、学ぶべきものがたくさんあるは
ずです。
その後、伊良部投手は「ピンストライプ」に身を包むことができました。
新聞などで大リーグや伊良部選手の報道を見るたびに、僕はいろんなことを思い出し
ます。
僕が初めて経験した「沸騰した職員会議」。
結局、制帽着用は校長判断で存続が決まりました。
現在、林先生は学校現場をはなれ、社会教育の分野で活躍されています。
(了)
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■関連コラム項目「制服」
http://www.yukichi.ne.jp/~deko/sakuin.htm#seihuku
■関連コラム項目「家庭教育」
http://www.yukichi.ne.jp/~deko/sakuin.htm#kateikyouiku