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■「理論派よっちゃんの学歴論争(2)」-2000/11/13-
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■その(1)の概略
http://www.yukichi.ne.jp/~deko/colums/rironha1.htm
よっちゃんは小学校5年生の男の子。
お母さんが「良英は口から先に生まれた子」と言うほどお話上手。
そのよっちゃんが「学歴社会」に異を唱える担任の僕にこう言ったのです。
「第一、先生、大学行ってるんやろ?」
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「ああ、先生は大学に行ったよ。」

「やっぱりね。やっぱり先生も学歴が大事と思ってるんやろ。」
と、よっちゃんは真剣に、そして素直に言いました。

「ああ、そうさ。先生は学歴が大事じゃないとは言ってないよ。」

「じゃあ、どういうこと?」

「学歴だけが大事ということはないってことを言いたいのさ。」

「センセの話、ようわからんわ。」
クラスの子ども達の多くも、よっちゃんに賛成という顔をしています。

理論派よっちゃんは続けます。

「おかあちゃんは、アリとキリギリスやと言うとったよ。
 今、苦労しとけば、大人になってから楽できると言うんや。
 それになあ、センセ。
 僕が大学行っとらんで、もし、学校の先生になりたいと思ったら・・。
 その時はどうなるん?
 やっぱ、僕も勉強はすかんけど、大学行っとかな、いけんような気もするで。」

僕は少し考えて言いました。
「うーん、イソップの話で言うとなあ。
 長いくちばしの鶴はコップの水は飲めたけど、お皿の水は飲めんかったぞ。
 学歴はくちばしと一緒や。
 必要な時もあれば、長すぎて困る時もある。」

我ながら「けっこう、うまいたとえ」だなあと思ったのもつかの間・・。
よっちゃんが言いました。

「先生、おかしいで。あれ、鶴が勝つお話やで!!」
クラスから声があがります。
「そうそう、狐が負けて、最後は鶴が勝つんや。」
「そうや、そうや、先生の負けや!」

ありゃまあ、いつの間にか「勝ち負け」の問題になってしまいました。

「先生はこう思うんや。
 確かに、今の世の中、学歴がないとつけない職業があるよ。
 また、それだけ専門的に勉強しないとできない仕事があるよ。
 その意味では学歴は仕事を決めてしまう場合もあるかもしれない。
 けどなあ、学歴は生き方までも決めてはしまわない。
 人生で大切なのは仕事じゃないさ。
 生き方なのさ。
 そう思ってるなあ。」

僕はそう言いました。
言いながら、詭弁だ、そう思いました。
ごまかしている、そう思いました。
僕の言いたいことに嘘はないのです。
しかし・・・。
しかし、実もない。
自身はこの考えに納得しているのだけれど、説得力はゼロに等しい。

9年の時が経ち、僕は教員をやめました。
やめる時、よっちゃんとのやりとりを思い出しました。
「人生で大切なのは仕事じゃない、生き方だ。」
僕が発した言葉は、やまびこのように9年後の僕に戻ってきました。

そしてさらに9年が経ちました。
「では、人生で大切な生き方とは何?」の答えを出そうともせずに、
あいかわらず、緊張感のない生活を送る「2児の父」。

「理論派よっちゃんの学歴論争」は問いを変え、答えを変えながら、こだま
する、僕にとっての終わらぬ自問の出発点だったのです。

(了)



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