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■「聴診器のある風景(2)」 -2000/05/30- その(1)
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「アンテナをはりなさい。」
僕が新米教員だった頃、先輩の先生にそう言われました。

「子どもはいろんなことで悩んだり傷ついたりしている。
 そして、そのSOSを何らかの形で教師に発信している。
 多くの場合は、直接的にではなく、違った形で信号を送ってくる。
 そんな信号をキャッチできるようにアンテナをはっておくのが教師のつとめだ。」

そのように教えてくれたのです。
僕はその通りだと考えました。
もちろん、マニュアルがあるわけではありませんから、暗中模索です。

一生懸命に「アンテナ」を意識して、子どもの無意識下の「信号」をキャッチしようと努めました。
しかし、、。
しかしです。
実際には、なかなかうまくいかないのです。
年数を重ねて行っても、アンテナがはれているのかどうかもわからないのです。
そんな自分でありながら、今度は後輩の教員に「アンテナをはる」重要性を伝えていました。
重要性は認識できるのですが、雲をつかむような話だった気がします。

そして、ある時のことです。
受け持っていた子どもがクラスの中で「消しゴム泥棒」をしてしまったのです。
僕はビックリしました。
まったく、その子からの信号をキャッチできていなかったのです。
明るく、くったくのない笑顔を持ったその子の内面を僕はキャッチできなかったのです。

僕は悩みました。
「自分のアンテナは機能していなかった。
 いや、アンテナは存在すらしていなかったのだろう。」
そう悩みました。

保護者になってからも「アンテナ型キャッチ」をずっと心がけてきました。
子どもが発する微妙な信号をキャッチすることを重要だと考えてきたのです。

しかし、僕は今この考えを捨てました。
僕には「アンテナ型キャッチ」は無理だと思ったからです。
そんな能力がなさそうなのです。

それよりも、むしろ「聴診器型キャッチ」を意識しようと決めました。
子どもの発する信号をアンテナとして受け取るのではなく、僕の方から聴診器を持って働きかけるのです。
アンテナのように受動的に待つのは、僕には荷が重いのです。
積極的に子どもの心の動きを知るように働きかけること、これの方が簡単そうです。

「以心伝心(アンテナ型キャッチ)」はある意味で理想でしょう。
しかし、例えばいろんな事件が起こったとき学校の対応はどうだったでしょうか。
「いじめは、なかった。」
こんな答えが返ってくる場合が多かったです。
これは「アンテナ型キャッチ」の限界というか難しさを表してはいませんか。

お医者さんの姿勢から学んだ「聴診器型キャッチ」。
もちろん、つたない僕の造語です。
しかし、家庭、そして学校でも、この発想は有効かもしれないです。
子どもの心の動きを知るという、考えれば、とてつもない作業。
一つの考え方として、僕は「聴診器のある風景」を家庭の中に持とうと思います。

(了)



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